バイオリン(ヴァイオリン)販売・専門店・
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ヴァイオリン選びで惑わされてはいけない相談相手からの言葉 2

インテルメッツォの第23回です。

今回も、前回に引き続き 「相談したときによく聞く、真に受けてはいけないアドヴァイス」 をお送りしたいと思います。

その言葉を真に受けて「解釈」を間違うと、 いつまでも迷走飛行を続けなくてはならなくなります。 くれぐれもお気を付け下さい。

◆ そのヴァイオリンはちょっと値段が高いんじゃない。

このような言葉が発せられるというのは、まだまだ、 「弦楽器商は儲けすぎだ。安いものを随分高く売り付ける。」 と思われているわけで、それは、つまるところ弦楽器商がまだまだ皆さまの信頼を得ていないということに他なりません。
確かに、昔は傷んだ楽器、つくりの悪い、古いだけの楽器を二束三文で仕入れ、 簡単な修理をして、10~20倍ぐらいで売ってしまうような楽器商もいたのでしょう。
しかし、最近のように、新作楽器の良さを皆さんが認識して来るとそういう商法は簡単には成り立たなくなってきていると思います。 そういった楽器商はと自然淘汰され、随分姿を消したとは思います。

そもそも、価格についてお客様から色々とご意見をいただく 理由は弦楽器には定価というものが無いからなのです。

弦楽器でも量産品なら定価が決められているのですが、手工弦楽器にはいわゆる定価というものはありません。

・ それが弦楽器を買うときのわからない点なんだ。

・ そうだから弦楽器は難しいんだ

と多くの方が感じられています。

また、こうも感じられているのでしょう。

・ 定価が無いのだから付けている値段など極めて怪しいものである。

・ 何かぼられていてるんじゃないかという気が常にする。

しかし、定価が無いというのは、本当に弦楽器に限ってのことなのでしょうか?

私は以前、お客様から いったいヴァイオリンの原価はいくらなんですか? と聞かれたことがあります。

この方は八百屋さんでは 「きゅうりの原価はいくらですか」 と聞くのでしょうか?

実際、八百屋さんのきゅうりの値段も、手工弦楽器同様 売り手が勝手に決めているのです。
同じ店でも、日によって(仕入れによって)値段が変わります。 近くの店やスーパーと値段が違うなんてことはざらです。
でも値段が違っても文句を言う人は滅多にいません。 それはそれを当たり前のことと、皆とらえているからです。
そして値段が安いのが好きな人は安い店で買うし、 品質を追求する人は、多少高くつこうとも物が良いところで買い物をします。
実は、このように定価が無いこと、価格がばらばらなことについて、多くの人は馴れているはずなのです。
そういう状況下でも、すでにご自分なりに店を選び、品物を選び、多くの品物を購入してきているはずなのです。

ヴァイオリンもひとつひとつ違う作り手がいて、 違った販売店があります。
ですから、様々な値段が付いていても全く不思議はないはずです。

では、どうして野菜や、肉等の価格の成り立ちには疑問を持たないのに、 こと弦楽器の価格対しては、目くじらをたてる人が多いのでしょうか?

それは野菜や肉なら、単価が安いので、1個あたりの業者の儲け額が気にならないということでしょう。
また肉や野菜は毎日消費するものだけに、毎日のように購入しています。 要は買い慣れているのです。

ところが弦楽器は、野菜や肉に比べると単価がべらぼうに 高いです。 ですから何となく業者にぼられているような感じがします。
また、弦楽器というものは(分数楽器を除いては)一生のうちにそう何度も買うものではありません。言ってみれば買い慣れていない商品なのです

定価が無いから。単価が高いから。滅多に買わないから。
弦楽器を買うときはまず、売り手に対して疑いを持ってしまうのです。

でも、画廊でゴッホの絵の原価はいくらですかと聞く人はいません。
それは芸術品に対しては敬意を払うからでしょうか? あまりに非日常的なものだからでしょうか?

最近、パソコンで随分オープン価格というものが採用されてきています。 そうすると、(定価が付いていないので値引き率がわかず)いくら得したか良く分からないという不満の声が上がります。 買い得感がはっきりしないということなのでしょう。
でも、本来の目的は、値引き率の高いマシンを買うことでは なかったはずです。
本来の目的は、性能の良いマシン、自分が気に入ることのできるマシンを「適切な価格」で買うことであったはずです。 それがいつのまにか、値引き率の大きさによって満足、納得するような思考回路にすりかわってしまっているのです。

楽器についても、 A店では○割引なんだ。 だからもっと安くしてくれ。とおっしゃられる方がいらっしゃいます。
確かに量産品のように定価のあるもの、どのお店でも売っている ケースや弦のようなものでしたら、割引金額ははっきりします。 しかし、定価のないもの、そのお店でしか扱っていない品物の場合は、 そもそも最初に付ける値段を高く設定しておけば、後からいくらでも割り引きが可能なのです。したがって値引き率を語るのはナンセンスでしょう。

先のパソコンの例同様、弦楽器を買う目的は値引き率という単なる数字だけの買い得感を得るためではないはずなのです。おそらくどなたにとっても、真の目的は、性能の良い楽器、音の良い楽器、つくりの良い楽器、自分の好みの楽器を適切な値段で手に入れることであるはずです。

つまり、価格が高いか安いかは、ひとえにその人自身の問題なのです。

高いか安いか、買うか買わないかはその人の楽器の評価如何です。
楽器のつくりや性能、音質、その他、ご自分が楽器に求める要素と 実際の価格を照らし合わせ、これなら買っても良いか、それとも 物足りなく感じるか、ご自分で判断するものなのです。

オープン価格の商品の場合は、

・ 自分がその商品に何を求めているのかをはっきりさせること

・ 性能の良し悪し、ものの良し悪しを絶対的に判断する目をもつこと

この2点が特に重要になります。

一方、定価のない商品を売る立場としては自分がお客さんの立場だったら、本当にその値段でその楽器を欲しいと思うだろうか?満足できるだろうか?と自問し続けることが重要だと思います。
自己主張ばかりだとこの商売は独善的になりがちです。

私は

・いくら有名な製作者の楽器であっても、自分で納得できないものはお見せしない。

・まず自分で納得のいく音になるまで調整をする。

と自分というものを前面に出していきながらも、決して独善的にならないよう、常に客観的な目を持っていきたいと考えます。

次の更新は15日ごろを予定しております。 どうぞご期待ください。