CD三昧

オペラ座のお仕事 世界最高の舞台をつくる 三澤洋史

Misawa

オペラ座のお仕事
世界最高の舞台をつくる
東京、ミラノ、バイロイト、北京・・・世界のオペラ座の知られざる舞台裏へようこそ!

三澤 洋史著
早川書房
ISBN  978-4-15-209489-6

これは新国立劇場・合唱指揮者の三澤洋史による、著作です。
合唱指揮者と言いますと、私も恥ずかしながら、ベートーヴェンの第九などの公演の際に、カーテンコールの際に呼ばれて出て来る人というくらいの認識、知識しか持っていませんでした。

ですから、この本を読んで、合唱指揮者の普段の仕事ぶり、そしてその苦労。そしてその苦労が報われたときの喜びなどが良くわかり、大変面白く読めました。
また、世界の有名歌劇場の違いなど、実体験に基づいているので、オペラについては門外漢の私にも大変わかりやすく、楽しく読めました。

言わば、黒子のような役割で表には出てこないので、仕事の内容がよくわからない合唱指揮者ですが、裏では作品上演のために大変な苦労をしていたのです。
まずは演出家や指揮者とのやりとりの大変さ。芸術家は皆我が強い人たちばっかりですから、その中でやっていくのは相当エネルギーの要ることだと思います。
ただ、外人とのやり取りの場合は、自分の主張を徹底的に言い合うことで結果的に上手くいくことが多いということで、いわゆる和を重んじる日本人的なメンタリティーではダメだということです。
対外国人の場合、一時対立したとしても、自分が大切にして絶対に譲れないものがあるということが相手に理解されると、リスペクトしてくれるようになり、その後はウソのように関係が良くなるのだとか。
人間関係において自分さえ折れればと、つい後退りしがちな日本人には大変考えされられる話です。
そして、作曲家の様式や劇場の特性に合わせて、合唱団への発音や発声法を細かく指導し、試行錯誤しながら変えていくところなど、作曲家、作品に真に奉仕しようとする姿が眼に浮かぶようで、感動的ですらあります。

弦楽器関連の本ではありませんが、芸術に関わる者の姿勢がどうあるべきかということを教えてくれる良き書籍として、お読みになられることをお薦めいたします。


ラスト・リサイタル ハイフェッツ

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BVCC-37127/8
ラスト・リサイタル ハイフェッツ

フランク:ヴァイオリン・ソナタ
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番より
ブロッホ:組曲「バール・シェム」 第2曲 ニーグン
ドビュッシー(ロック編):レントよりおそく
ラフマニノフ(ハイフェッツ編):練習曲「音の絵」変ホ長調op.33-4
ファリャ(コハンスキー編):「7つのスペイン民謡」第5番 ナナ (子守歌)
クライスラー:カルティエのスタイルによる狩り
ラヴェル:ツィガーヌ
-アンコール-
テデスコ(ハイフェッツ編):海のささやき~二つの海の練習曲より

ヴァイオリン:ヤッシャ・ハイフェッツ      ピアノ:ブルックス・スミス

録音:1972年10月23日 ロサンジェルス ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン でのライヴ

これは教鞭をとっていた南カリフォルニア大学音楽部の学生と教授陣の勉学の資金調達の為に1972年10月23日にひらいた慈善コンサートのライブ録音で、公開のコンサートとしては最後のものとなったリサイタルになります。
晩年のハイフェッツは持てる時間のほとんど全てを若手の指導に注いでいて、公開の演奏会からはほぼ完全に遠ざかっていたそうですが、これは10年ぶりに開いたリサイタルということです。

ハイフェッツは1901年2月生まれということなのでそのとき71歳ということなのですが、前半に大きなソナタを弾き後半にはヴィルトゥオーゾピースを交えた小品集を弾きこなすという離れ業をやってのけます。
フランクもシュトラウスも過度にロマンティックな表現に陥ることなく、、しかし決して冷徹な醒めた演奏ではありません。作品の本質を鋭くえぐり出すすぐれた解釈、演奏と言えるのではないでしょうか。

その後の小品集は、まさにハイフェッツの自家薬籠中のものと言えるでしょう。クライスラーで聴かせるスピッカートの切れ味はハイフェッツならではのものです。

さすがに最後のツィガーヌではスタミナが切れたのか、それとも時間的にさらいたりなかったのか、ハイフェッツとしてはかなりあやしいところのある演奏。しかしそれはそれで、ハイフェッツもやはり人の子だったのだとちょっと安心させてくれますね。

ハイフェッツが最後に到達した境地、そして若い頃から少しも変わっていない曲の構成力、聴衆を引き付ける求心力等を聴くにはまたとないCDでしょう。
録音は聴衆のノイズも含めた大変生々しいもので、このコンサートを固唾をのんで皆が聴き入る様が手に取るようにわかります。貴重なドキュメントの記録としても一聴をお薦めいたします。


オーケストラがやって来た DVD-BOX

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TCED-2024
オーケストラがやって来た DVD-BOX

Disc1:
・第一楽章 山本直純編~ヒゲの超人 響いた、跳んだ!~
 山本直純の名シーンを中心に収録(約120分)

Disc2:
・第二楽章 小澤征爾編~音楽は神さまの贈りもの~
 小澤征爾の名シーンを中心に収録 (約120分)

Dics3
・第三楽章 名演奏・名企画編~素晴らしき哉、オーケストラ~
 番組でも指折りの名演奏、名企画を長尺で収録(約120分)

Disc4:
・第四楽章 夢の共演オンパレード~泣いて笑って心に刻んだ~
 様々なゲストの登場シーンを中心に収録(約120分)

これは、山本直純の司会で、1972年から1983年まで11年間に渡りTV放映された「オーケストラがやって来た」(全544回)の名場面を集めたDVD-BOX (分売もしています)です。

毎週日曜日、楽しみにこの番組を見ていたので、このDVDセット大変懐かしく視聴しました。
と言いますと歳がバレますが、HDDやDVDはもちろんのこと、ビデオデッキすら家庭になかった時代、本当にその時間にテレビの前にかじりついて一所懸命視ていたのだと思います。
お恥ずかしいことに、私はしばらくの間、冒頭のテーマ音楽は、この番組のオリジナルと勘違いしておりました。
ウィーンフィルがカール・ベームと来日した時に、アンコールを演奏したのですが、その時、なんと『オーケストラがやって来た』のテーマ音楽が流れたのですね。もちろんそのはずはなく、それはヨハン・シュトラウスの『常動曲』という曲でした。(ベームが曲を止める時に「いつまでも」と日本語で言ったのを今でも覚えています。)つまりそのとき、真実をやっと知ったのです。
でも今このテーマ音楽を聴き直してみると、楽器紹介も兼ねており、最後は「オーケストラがやって来た」と会場全員で合唱するのですが、実にうまく編曲されていますね。改めて山本直純という人は天才だったと思います。

山本直純と言えば、私の年代の方は「大きいことはいいことだ」という森永エールチョコレートのCMをご記憶のことと思います。若い人には何それ?と思われると思いますが、映画「寅さん」シリーズの音楽を手掛けた作曲家だと言えば少しはわかっていただけるでしょうか。

この番組の凄かったところは、山本直純の友人である小沢征爾が相当関わっていたということ、そしてその人脈を生かして、外国からもアイザック・スターン、イツァーク・パールマン、エッシェンバッハなどの大物演奏家も番組に呼んだということでしょう。

その他、ゲストの数をあげれば枚挙にいとまがありませんが、弦楽器関係だけでも、千住真理子、江藤俊哉、徳永二男、堀米ゆず子、数住岸子、堤剛、藤原真理、倉田澄子、そして海外からは、先に挙げたスターン、パールマン、シルバースタインなど実に豪華です。

もちろん、お茶の間へのクラシック音楽の啓蒙もこの番組の狙いでしたので、森進一、五木ひろし、都はるみ、石川さゆりなどの演歌歌手などもゲストとして出演していました。

544回の放送どれも力作ぞろいだったと思います。それをたった4枚のDVDにまとめるのは至難の業だったと思いますが、今またその抜粋だけでも視られるのは大変幸せに思いました。

なかでも印象的だったのは、アイザック・スターンのブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番、イツァーク・パールマンのサン=サーンス 序奏とロンド・カプリチオーソ。まさに入魂の演奏と言えるでしょう。
また、小澤征爾が数住岸子、藤原真理を前にブラームスのドッペルコンチェルトのリハーサルを入念に行う場面。斉藤秀雄の言葉を引用して、ブラームスの音楽の神髄を語るところなど、演奏者の音楽に対する真摯な姿勢を視ることができます。その他、15歳の千住真理子と師匠 江藤俊哉の共演のようなお宝映像もあります。

とにかく、昔この番組を視ていた人は間違いなく楽しんで視ることができると思います。しかし、この番組を知らない若い世代の方が今視られたら、番組の内容の水準の高さにきっと驚かれるのではないかと思います。いつの世代の人間が見ても、きっと山本直純の発想力、企画力に感服されられると思うのです。


ヴァイオリン&ヴァイオリニスト 古今東西の名手と名器たち

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ヴァイオリン&ヴァイオリニスト
古今東西の名手と名器たち

音楽の友 編
音楽の友社
ISBN  978-4-276-96238-5

19~21世紀のヴァイオリンの巨匠たち
   ヴァイオリンとヴァイオリニストの血脈を探る
           ヴァイオリンの銘器たち
           世界の名ヴァイオリニスト
           ヴァイオリン工房を訪ねて
           日本の名ヴァイオリニスト
           作曲家別 ヴァイオリンの名曲とそのスペシャリスト

これは日本、海外のヴァイオリニスト363人を網羅する事典的な書籍と言って良いでしょう。
ただ、「古今東西の名手と名器たち」というサブタイトルから連想されるような(私だけの勝手な連想だったのかもしれませんが)各々の演奏家がどんな楽器を使っていたかというような内容は全く書いてありませんでした。その点では以前ご紹介したこちらの書籍の方が興味深いと思います。
しかしながら、ヴァイオリニストの経歴等を調べるには大変便利です。これほど多くの演奏家について記された書物はかつて無いでしょうから。

ただ、残念なのは先に書いたことばかりはなく、ヴァイオリンに関する記述内容の浅さでしょうか、例えば「ヴァイオリン工房を訪ねて」とはヤマハのこ
とで、ヤマハしか載っていません。別にヤマハを悪く言うつもりはありませんが、それしか載っていないというのは肩すかしを食ったような気がいたします。
しかもそれは記事風の広告のような内容で、私も知らないような現代のヴァイオリンづくりの名工の話が読めるのかと期待していたので、ちょっとがっかりです
ね。フリーペーパーではなく、1800円も出して買う書籍なのですから、このような広告臭がするのはいかがなものかと思いました。    

題名と項目だけを見て、内容を見ずに買った私が悪いのですが、どちらかと言うと、この本は「ヴァイオリニストの経歴」に重点を置いて書かれている本だと思います。
Amazonなどで内容を見ずにご注文されずに、書店で内容を良くチェックされご納得の上でお求めになるのがよろしいのではないかと思います。


ツィゴイネルワイゼン ~ユリア・フィッシャー サラサーテ名曲集

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UCCD-1392    
ツィゴイネルワイゼン~ユリア・プレイズ・サラサーテ

サラサーテ:
・スペイン舞曲第7番 Op.26-1
・スペイン舞曲第8番 Op.26-2
・ホタ・アラゴネーサ Op.27
・アンダルシアのセレナード Op.28
・ナイチンゲールの歌 Op.29
・スペイン舞曲第1番『マラゲーニャ』 Op.21-1
・スペイン舞曲第2番『ハバネラ』 Op.21-2
・スペイン舞曲第3番『アンダルシアのロマンス』 Op.22-1
・スペイン舞曲第4番『ホタ・ナバーラ』 Op.22-2
・スペイン舞曲第5番『祈り』 Op.23-1
・スペイン舞曲第6番『サパテアード』 Op.23-2
・バスク奇想曲 Op.24
・ツィゴイネルワイゼン Op.20

ヴァイオリン:ユリア・フィッシャー   ピアノ:ミラナ・チェルニャフスカ

録音:2013年7月

ユリア・フィッシャーのサラサーテ作品集。サラサーテと言えばまず『ツィゴイネルワイゼン』が真っ先に思い浮かびますが、その他の曲は意外と知られ
ていないもの。ですから、このCDは普段聴かれない作品も収録した注目のアルバムと言えるでしょう。(でも何故か『序奏とタランテラ』が収録されていませ
んね。残念!)

ユリア・フィッシャーはかのアナ・チュマチェンコ門下。4歳からヴァイオリンとピアノを始め、ピアノの腕前も相当なものであることはこの演奏会のDVDで実証済み。23歳の若さでフランクフルト音楽・舞台芸術大学の教授に就任したと言いますから驚きです。(ドイツ史上最年少記録)

録音は高域の伸びが素晴らしく、ハーモニックス(フラジオレット)が冴えわたります。もちろん彼女の技術が確かなことは間違いないのですが、これだけ澄み切ったハーモニックスが聴けるCDも珍しいのではないでしょうか。
『ナイチンゲールの歌』をお聴きになれば、実音とハーモニックスが入り乱れるチャーミングで美しい演奏をお楽しみになれると思います。

実はこのCDを聴く上でのもう一つの魅力は彼女の高音の美しい音だけではありません。それはワイルドとも言える彼女のダイナミックな弾きっぷりにもあります。低音で音が割れたり、ピッツィカートで指板に弦がぶつかることもお構いなしという野性的な面も見せてくれます。
スペイン舞曲第4番『ホタ・ナバーラ』、スペイン舞曲第2番『ハバネラ』 、スペイン舞曲第6番『サパテアード』などを聴かれればそのダイナミックな弾きっぷり、鮮やかな技巧に必ずや度肝を抜かれることでしょう。


かし、『ツィゴイネルワイゼン』は上手な演奏には違いないのですが、あまりにも切れ味鋭く、洗練し過ぎていてアクが足りないと言いますか、民族的な“血”
を感じさせるところが少し不足しているように感じました。でもユリア・フィッシャーにしてみればそんな要素を取り入れるのは“野暮ったい”ということかも
しれませんね。

ところでユリア・フィッシャーの楽器ですが、J.B.Guadaganini 1750年を使っているという話は聞いたのですが、WEB情報に因りますと Philipp Augustin 2011年作を購入したともあります。このレコーディングに使われた楽器がそのいずれかは不明ですが、更にネット検索を進めますと興味深い書き込みを見つけました。それはこちらです。
それによりますと、Guadaganini と Philipp Augustin をユリア・フィッシャーが同じ曲で弾き分けているというのです。良く読んでみますと、違う日、違う場所なので厳密な弾き比べにはなっていないようです。また、TV収録の音声のためあまり音が良くないという断りがあります。まあ、どちらにしてもYouTube上なので音は良くないと思いますが・・・

いずれもトークショーのような番組で、ドイツ語なので何をしゃべっているのか私にはチンプンカンプンなのですが、しばらくするとユリア・フィッシャーが生でクライスラーの『レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース ティーヴォ』の一部を弾きます。
何やら 弾く前に Philipp Augustin とか Guadagnini と言っているところぐらいはかろうじて聴き取ったのですが、その他はアウトです。ドイツ語の堪能な方ならこの番組、きっと楽しめますね。


グリュミオー ジャパン・ライヴ

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TYGE 60011   
グリュミオー ジャパン・ライヴ
TBS VINTAGE CLASSICS

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 BWV1004よりシャコンヌ
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調 op.78『雨の歌』

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー
ピアノ:イシュトヴァン・ハイデュ
  録音時期:1961年4月 大阪フェスティバルホール モノラル(ライヴ)
 SACD Hybrid マスタリング 杉本一家

TBSの地下倉庫からクラシックのライヴ音源が218点も見つかったとのことで、続々とSACD化されています。
その音源には名だたる巨匠たちの来日公演が、当時としては極めて高音質で、数多く残されていたようです。
いずれも1950-60年代にかけてラジオ東京(現TBS)で放送された後、半世紀以上、お蔵入りとなっていたものだそうで、それをXRCD等のマスタリングで有名な杉本一家がSACD化 しています。

そのTBS VINTAGE CLASSICSの中の一枚。グリュミオーの唯一の来日公演という興味深いものがありましたので聴いてみました。

アルテュール・グリュミオーは1921年の生まれということなので、この来日時は40歳。まさに脂の乗り切った時期と言えるでしょう。ライブでこれだけの説得力のある音、音楽はまさに巨匠の芸ですね。

シャコンヌはもちろん“今風”のピリオド奏法を取り入れたものではありません。しかし、グリュミオーのバッハは当時一般的だった一点一画もゆるがせ
にしない禁欲的なバッハでも名人芸、巨匠風的なバッハでもありません。音色の変化やテンポの変化を自由に操る、感覚的バッハとでも言うべきものでしょう。
当時としては非常に珍しかったのではないかと思いますが、ピリオド奏法に慣らされた現在の私の耳からすると、肩ひじ張らない自然な、そして親しみやすいバッハというように映ります。

ブラームスは分厚くこってりとした脂っぽい演奏ではなく、さらっと、テンポもやや早めに進んでいきます。しかし、曲全体は優しい気品のある“うた”に満ち満ちています。それを実現しているのは素晴らしいヴィブラートの効果ではないかと私は思います。
ヴィブラートというのはかけ過ぎると非常に不自然に聴こえますよね。でも名人のヴィブラートというのはかなり強く(幅広く、速く)かけているのに全く不自然さが無いのです。不思議です。
確かフルートの名手マルセル・モイーズの言葉だったと思うのですが、こう言ったそうです「ヴィブラートというのは心臓の拍動のようなもので、かけるものではなく(音楽の高まりにより、自然と)かかるものだ」と。そして彼は大げさであったり、チリメン状の不自然なヴィブラートを示して、それはまるで体から心臓が飛び出ているようなものだと皮肉りました。グリュミオーの美音の秘密のひとつはその自然でいながら音に生命力、推進力をもたらすヴィブラートにあるのは間違い無いでしょう。

録音は1961年という年代にもかかわらず、ステレオで収録されなかったのが残念ですが、これはTBSのラジオ放送のための収録だったためで致し方ないことですね。しかし、ヴァイオリンとピアノのデュオを聴く分には申し分ありません。そして、録音自体が優れていたのか、杉本一家のマスタリング作業が素晴らしいのか、そしてそのどちらもが素晴らしいためなのかはわかりませんが、とても50年以上も前の録音とは思えない鮮度の高さです。
多少オン気味ではありますが、決して無機質な乾いた音ではなく潤いのある瑞々しい音です。ヴァイオリンの響きを本当に良く捉えていると思います。これはグリュミオー絶頂期の美音を余すことな収録した好録音と言えるのではないでしょうか。時々入る観客の咳払いでこれがライブだったことを思い出させてくれますが、演奏も録音もライブとは思えない素晴らしさですね。
この素晴らしいSACDを聴くと、生で聴いたらどんなに凄かったのだろうかと想像がどこまでも膨らんでいきます。TBS VINTAGE CLASSICS 他のディスクも注目していこうと思っています。


パガニーニ ヴァイオリン作品集 サルヴァトーレ・アッカルド

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  Accardo07
 

Tbm 480 166-4 (XRCD)         DG  436754-2(従来盤)
XRCDと従来盤を聴き比べる
Diabolus in Musica
パガニーニ ヴァイオリン作品集 サルヴァトーレ・アッカルド

・カプリース 第13番より テーマ
・協奏曲 第2番 第三楽章 “La Camanella”
・カプリース 第5番
・協奏曲 第4番 第三楽章
・英国国歌  God save the king による変奏曲
・カプリース 第24番
・協奏曲 第3番 第三楽章
・カプリース 第1番
・協奏曲 第1番 第三楽章
・無窮動   

ヴァイオリン:サルヴァトーレ・アッカルド
指揮:シャルル・デュトワ  ロンドンフィルハーモニー管弦楽団

XRCDは以前に、こちらこちらでご紹介いたしましたが弦楽器の再生にはメリットが大きいように思います。その技術的な内容についてはこちらをご参照ください。

今回は従来盤と比較してみました。
従来盤はパガニーニのヴァイオリン曲全集とも言えるもので、このXRCD盤はそこからの抜粋になっています。

従来盤もアナログ期の録音とは思えない好録音で、ヴァイオリンの魅力、パガニーニの魅力を充分伝えてくれるものです。ですが、今回のXRCD盤と比
べてしまうとちょっと歩が悪いようです。というよりも、XRCD盤の音がちょっと凄すぎますね。比較しなければ充分従来盤も良い音だと思うのですが・・・。

それでは、何が違うか・・・ですが。
オーケストラ伴奏の曲に於いては、オーケストラ広がり感、空気感がかなり違っています。XRCDで聴く
と、オーケストラがスピーカーの幅一杯、あるいはスピーカーの外にまでも広がるように聴こえます。そして弦楽器の細かい動きなどが鮮明に手に取るように聴
こえてくるのです。
また、パガニーニはオーケストラにトライアングル、シンバルなどの打楽器を加えることが多いのですが、そういった金属系の打楽器の音がうるさくなく、しかしはっきりと聴きとることができます。
従来盤ですと、打楽器の音などがややお団子状になってしまい、したがってすこしうるさく感じるきらいがあります。2曲目の“La Camanella”のトライアングルの音色を聴き比べてみてください。

ソロヴァイオリンの音については高い音の抜けの良さがXRCDと従来盤では相当違って聴こえます。
XRCDは高弦の抜けが素晴らしく、それでいて全く金属的な刺激臭はありません。これぞパガニーニというスカッとした響きが、アッカルドの好演も相まって楽しめることと思います。
独奏曲はオケ伴奏の曲ほどパッと聴いた時に違いは感じません。オケのような空間の広がりの違いが無いからです。
が、良く聴いてみますと、アタックの強弱、弓使い等そういった細かい奏法の変化を気付かせ
てくれるのはXRCD盤の方です。弓が弦を噛む瞬間の音までわかるというような感じでしょうか、大変生々しく、臨場感があります。従来盤は滑らかですが、こうやって比較してみますと、アタックや弓使い
が曖昧に聴こえ、演奏の生命感が失われてしまうように思います。例えば最後の無窮動を聴いてみられれば明らかだと思います。

というわけで、この聴き比べはXRCDのメリットがかなり感じられるという結果になりました。
構成がヴァイオリン協奏曲、カプリースからの抜粋なので、もう少し聴きたいという気持ちが残りますが、オーディオ的にもそして音楽的にも楽しめる充実したCDなのではないでしょうか。


ウィーン交響楽団 ジャパンツァー 指揮:ファビオ・ルイジ

Wiener01

TMSS-068
ウィーン交響楽団 ジャパンツァー
                      指揮:ファビオ・ルイジ

収録作品
・マーラー:交響曲第1番『巨人』から
・ブラームス:交響曲第4番から
・ヨーゼフ&ヨハン・シュトラウス:ピチカート・ポルカから
 製作:バーバラ・ヴァイゼンベック
 監督:マクシミリアン・シュテルツェル
 撮影:イェルク・シュテファン・アームブラスター

 本編52分
 音声1:ドイツ語ステレオ
 字幕1:日本語字幕
 画面サイズ:ワイド(16:9)

<インタビュー>
ファビオ・ルイジ
吉井健太郎(チェロ)
クレア・ドルビー(ヴァイオリン)
ヴォルフガング・フィスターミューラー(トロンボーン)

このDVDは演奏というよりも、演奏会の舞台裏を描いた極めて珍しいDVDです。ですから、ひたすらウィーン交響楽団、ファビオ・ルイジの演奏を視たい、聴きたいという方は決して買ってはいけません。演奏風景はごくわずかしか収録されていませんから・・

このDVDに収録されているほとんどは、いわゆるオーケストラの演奏旅行、業界用語で言えば、“ガクタイのビータ” の映像なのであります。
2006年10月31日から11月10日にかけておこなわれたウィーン交響楽団の日本公演に密着したドキュメンタリー映像作品です。

・楽器はどうやって運搬しているの?

・飛行機にはどうやって積んでいるのだろう?

・コンサートの合間には団員は何をしているの?

・リハーサルはどうやっているの?

等々、きっとこれをご覧になれば皆さんの疑問が解消されることでしょう。

頑丈なアルミのケースに楽器が入れられ、飛行機に、トラックに入れられるさまは貴重な映像です。
郷に入れば郷に従え、旅慣れた団員は日本で居酒屋やカラオケを楽しんだりしています。金管奏者ならではのノリでしょうか、居酒屋の日本人客とも交流していました。
オーケストラ奏者というもの、演奏旅行が苦になってはやっていけないものなのだとつくづく感じました。

繰り返し申し上げますが、このDVDは演奏を視聴するものではございませんので十分にご注意ください。


同行二人、弦の旅 辻 久子

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同行二人、弦の旅

辻 久子
対話講座 なにわ塾叢書77
ISBN 4-8339-0177-3

この本は1999年に4回に渡って行われた、「なにわ塾・辻 久子講座」を本にまとめたものです。講演会でヴァイオリン奏者の辻 久子が話したものを文章化したものなので、ある意味大変わかりやすい言葉で書かれていて、大変読みやすく、一気に読めてしまうと思います。

辻 久子は1926年の生まれということなので、(2013年)現在、87歳ということになりますが、この本を読みますと、戦後の大変な時期を、ヴァイオリン、クラシック音楽とともに生きてこられたことがよくわかります。

ヴァイオリニストであり指導者である父親の下で厳しいヴァイオリンの練習の日々を続けられたことが書かれていますが、練習は嫌で嫌で仕方がなく、練習から逃れるために、楽器を壊してみたり、わざと指を切ってみせたりしたこともあるそうです。
そのお父さんですが、ヴァイオリンの練習のために小学校を休学させ、その代わりに家庭教師を付けていたといいますから、徹底しています。
また、すぐに弾ける曲をできるだけ沢山持っていなければプロとしてはやっていけないという信念の下に下記の様なユニークな練習法も編み出します。

いろいろな曲を練習しますので、だんだんレパートリーが増えてくるでしょ。それをいつでも弾けるようにしておけと言うんです。一つの曲を何か月もかけて練習して、やっとステージで演奏するようなことではプロとは言えないと。少なくとも今まで練習してきた曲は、言われたらすぐに弾けるように準備しておきなさいということなんです。そして、こんなことをやらされました。
それまでに練習した曲を小さい紙切れに一曲ずつ書いて、読んだあとのおみくじのようにねじって、箱に入れておくんです。一日の稽古が終わったあと、その箱から一枚抜いて、当たった曲を弾かされるのですが、あれは本当にいやでした。「わあ、モーツァルトの5番や」という感じでね(笑)。それを弾き終わると、今度は別の箱に入れさせられます。そうしますと、20曲あれば20日で一曲ずつ弾く勘定になって、紙切れは全部その箱に入ります。それで終わりかと思ったら、また、一曲ずつ弾いて前の箱に戻していくんです。―中略― コンクールに出る頃まで、それをずっと続けさせられました。最終的には100曲ぐらいになったと思います。

何とも壮絶な練習法ですね。でもそのおかげでコンクールで一曲弾くぐらいは容易なことになったとのことです。

またオイストラフが初来日を遂げる際に陰で動いた人の話など、そして辻 久子はオイストラフに大変可愛がられ、練習からリハーサルなど何でも聴くことが許されていた事など、興味深い話を知ることができます。

何と言っても、この人の名前は
クラシックファンだけでなく、「家を売ってストラディヴァリを買った」というセンセーショナルなニュースで多くの人に知れ渡ったのですが、それも1973
年のことだと言いますから、今このブログをお読みの方々の大半は辻 久子の名前もそのニュースもご存じないかもしれませんね。

近鉄百貨店の展示会でストラディヴァリが3500万円で売りに出されていたということなのですが、ヴァイオリンが百貨店で売られるというようなことを聞きますと、今とは違い、当時の百貨店というものがいかに権威のある存在であったかということがわかります。

この本には、そのストラディヴァリを手に入れる話だけでなく、それまでの楽器遍歴、J.B.ガダニーニやシュタイナー、ヴィヨームなどの話も詳しく
書かれていますから、楽器愛好家は見逃せません。また、調整のことなども演奏家の視点で色々と述べられ、非常に興味深いものがありました。

ともかく、私自身、「こんな本があったのか」という驚きと内容の面白さで一気に読み進んでしまいましたが、ヴァイオリン愛好家、演奏者には見逃せない本ではないでしょうか。


ラプソディ~ロザンヌ・フィリッペンス

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CCSSA 35013 
ラプソディ~ロザンヌ・フィリッペンス

ラヴェル:演奏会用狂詩曲《ツィガーヌ》
            ヴァイオリン・ソナタ第2番
バルトーク:ラプソディ第1番 Sz.86, BB.94
             ラプソディ第2番 Sz.89, BB.96
            ルーマニア民俗舞曲 Sz.56, BB.68(セーケイ編)
フバイ:チャルダッシュの情景第4番《ヘイレ・カティ》 Op.32

ヴァイオリン:ロザンヌ・フィリッペンス
ピアノ:ユーリ・ファン・ニーウカーク
使用楽器:Michael Angelo Bergonzi c.1750 Cremona
録音:2012年11月

このCDのソリスト、ロザンヌ・フィリッペンスは私は初めて聞く名前ですが、オランダのハーグ王立音楽院、ドイツのハンス・アイスラー音楽大学で学び、2009年のオランダ国際ヴァイオリンコンクールで第1位ということです。
実は私が注目したのは楽器のこと。オランダの名門オーケストラ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の名コンマスだったクレッバースの楽器、Michael Angelo Bergonzi を使用とライナーノーツに記載があります。

Michael
Angelo Bergonzi は有名なCarlo
Bergonziの息子にあたります。Carloほどではないにしても、名器には違いありません。確かシュロモ・ミンツもこの製作家Michael
Angeloの楽器を使っていたことがあったと思います。その楽器は今、宗次コンクールの入賞者への貸与楽器になっているはずです。

さて、演奏を聴いてみましょう。非常にクリーンな演奏で全くと言って良いほど雑音を含んだ汚い音は出しません。しかし、それが良いかと言うと実はそ
うとも言えないところが複雑です。感情の赴くままに激しい音、汚い音を聴かされるのも辛いものですが、雑音成分が全く聴こえないというのも、パワー不足と
いうか物足りなさ、食い足りなさが残ります。
決して単調なわけではなく、良く歌ってはいるのですがどうしてもどこか醒めた演奏に聴こえてしまいます。

が思うには、いわゆる「食いつき」と呼ばれる弓が弦を捉える文字通り弦を噛む瞬間の音が全くと言って良いほど聴こえてこないからなのではないかと。発音の
瞬間、思わず雑音成分を含んだ音が出てしまうことがあるのですが、適度な雑音成分は演奏に迫力をプラスしたり曲の盛り上げに効果的なこともあるのだと思います。
ラベルのソナタの1楽章のような曲は曲想から静かな滑らかな音造りで良いのですが、このCDのタイトルにもなっている、プログラムの大半を占めるラプソディックな曲に於いては、そのような音ではどうしても民族的な“血”が感じられません。

それでも、このCDの中で良いと感じた演奏は最後に収録されているフバイのチャルダッシュの情景第4番。これは他の曲と比べて見違えるほど音が伸び、生き生きとしたものとなっています。

に高音の伸びを、例えばバルトークのルーマニア民俗舞曲と比べてみてください。楽器の調子なのか、マイクセッティングの違いなのかその要因は良くわかりま
せんが、随分と違って聴こえるのがおわかりになると思います。この音、演奏ならば、名器の音を聴いたという満足感に浸れるように思います。