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おけいこ名曲の次にくるのは・・・ アンリ・ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲全集

ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲全集
ヴァイオリン演奏者たち

Fuga Libera / MFUG 575

アンリ・ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲全集

第1番 ホ短調              ヴィネタ・サレイカ
第2番 嬰ヘ短調          ラチャ・アヴァネシヤン
第3番 イ長調              ニキータ・ボリソ=グレブスキー
第4番 ニ短調              ロレンツォ・ガット
第5番 イ短調              ヨシフ・イヴァノフ
第6番 ト長調               ヨラント・ド・マーイエル
第7番 イ短調              ハリエット・ラングレー

パトリック・ダヴァン指揮  ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2010年 7月

おけいこ名曲 をめでたく卒業し、その後もヴァイオリンはやめずに続けますという子だったり、専門家を目指して音楽高校への進学を考えますという子が次に必ず取り組むのがこのヴュータンのヴァイオリン協奏曲(その中でも4番、5番)です。

ヴュータンは《バレエの情景》を作曲したド・べリオの弟子にあたり、ヴュータン自身はその後イザイを育てます。いわゆるフランコ=ベルギー派の重鎮としてヴァイオリン演奏史上欠くことができない人物なのです。その作品はヴァイオリン弾きにとって避けては通れない道のようなもの。ですから、ある程度ヴァイオリンが弾けるようになってくると必ず取り組まされるというわけなのです。

そういう曲ですので、ヴァイオリンの発表会やコンクールではかなり頻繁に聴くことができるのですが、オーケストラの演奏会ではヴュータンのヴァイオリン協奏曲が取り上げられることはほとんどありません。ですから、ヴァイオリンに深く関わっていない方々にはおそらく全くなじみのない曲だと思います。
CDも極端に少ないのですが、かろうじてハイフェッツ、パールマン、グリュミオーなどの録音が残っており、なんとかそれを聴くことができます。グリュミオーCD

でも、この曲を聴くなら本家本元、フランコ=ベルギー派直系のグリュミオーの演奏に限ります。
ハイフェッツの演奏は確かに切れ味はありますが、強引でおよそエレガントとは言えない演奏ですし、パールマンは分厚い音で実にゴージャスですが聴いていてちょっともたれる演奏です。
グリュミオーの演奏は華麗ですが、決して技巧をひけらかすようなことはありません。どんな場面でもその演奏は節度を持ち、優雅で洗練されているのです。4番のスケルツォ楽章は何度聴いてもほんとに凄いですね。

グリュミオーの後に続く名演奏がなかなか出ないので、おけいこヴァイオリニストやそのママさんたちはさぞかしやきもきしていたことと思いますが、ご安心ください。素晴らしい企画、演奏の新録音が出ました。
ソリストはベルギーの名門コンクールであるエリザベート王妃国際コンクールの入賞者(それも一曲ごとに異なる奏者で録音)、そしてベルギーのオケによる伴奏とまさにベルギー尽くしの力作です。これこそフランコ=ベルギー派の真髄に触れるのに最適のディスクと言えるでしょう。
また日本語解説がかなり充実していますので、作曲者ヴュータンの時代背景を知るのにもうってつけと言えるでしょう。

ソリストの演奏はどれも素晴らしいもので、第1番のサレイカ、第3番のグレブスキー、第6番のマーイエルのヴァイオリンの音色は大変印象的です。ですが私が最も感銘を受けたのは5番を弾いているヨシフ・イヴァーノフ。ヴァイオリンの音色の美しさだけではなくドラマチックな側面も見せてくれます。その点グリュミオーのアプローチとは少し違って、より力強さを感じさせるものではありますが、そこは決して則を越えることはなく、劇的な中にも流麗で美しい演奏となっています。

録音はヴュータンの音楽の香りが伝わって来るような雰囲気豊かなものです。オーケストラの弦のざわめき、ソリストのE線の抜けるような倍音が聴こえるようなリアルさもあります。それが全く刺激的に聴こえないことから、ホール、使用機材等の素直な高域特性をうかがい知ることができます。

なお、各ソリストの使用楽器についてはライナーノーツに明記されておりませんが、ホームページ等に記載があったものをご参考までに記しておきます。(ですから、このレコーディングでそのヴァイオリンが使われているかどうかは不明です)
ヴィネタ・サレイカがJ.B.Guadagnini 1793、ラチャ・アヴァニシアンがStradivari 1717“Piatti”、ロレンツォ・ガットがJ.B.Vuillaume、ヨシフ・イヴァーノフがStradivari 1699“Lady Tennant”とのことです。