ジョルジュ・エネスコ|蓄音機で蘇る巨匠の演奏|シェルマン復刻CD

シェルマン復刻CD

シェルマン/SH-1007
GEORGES ENESCOⅡ

ショーソン:詩曲
クライスラー:プニャーニのスタイルによるテンポ・ディ・メニュエット
プニャーニ/モファー編:ラルゴ・エスプレッシーヴォ
ヘンデル:ソナタ第4番 ニ長調
コレルリ/ダーヴィド編:ソナタ ニ短調“ラ・フォリア”

ヴァイオリン:ジョルジュ・エネスコ    ピアノ:サンフォード・シュルッセル
録音:1929年

またまた復刻CDのご紹介ですが、今回はSPを蓄音機で再生し、その音をデジタル録音したものをCD化したという凝ったもの。その復刻プロセスの詳細は制作したシェルマンの復刻CDについて を見ていただくとして、要は蓄音機というのは全く電気的な増幅をしない再生装置だということなのです。つまり楽器と同じくアコースティックな振動形態を取っているということなのです。
私も以前聴かせてもらったことがありますが、声楽やヴァイオリンの音の何とも言えない自然な響きに感激した記憶があります。
最新のオーディオ機器でリアリティを追及していくと分析的、顕微鏡的なものになりがちで、その響きはどこか冷たい、温もりの無いものになりがちなのですが、蓄音機の奏でる楽音は、まさに生身の人間が奏でる血の通った音楽として聴こえてきます。
ですが、それをデジタル録音してCDプレーヤーで電気的に再生するのでは身も蓋もないと思われるかもしれません。それでも蓄音機体験には最も近い方法なのではないでしょうか。
だいたい現実的には、蓄音機の名器と言われるものはウン百万もするらしいですし、SPレコードも状態の良いものなどは何十万とするらしいですから、本格的な蓄音機を体験することはなかなか簡単にできることではありませんね。疑似的な体験であっても、それが手頃な価格でできることは評価されてしかるべきでしょう。

さて、そうやって聴くこのCDですが、驚くほど針音が少ないことに気が付きます。これはノイズリダクションを行っているわけではなく、竹の針を使用しているからだそうです。もちろん使っているSP盤の状態も相当良いものなのでしょう。
他の復刻CDと比べますと、低音域のふくよかさをより強く感じさせてくれるような気がいたします。これまでの復刻盤ですと高域の輝きは実感するものの、低音域においてはどこか詰まったような響きの無さを感じていました。もちろんシェルマンの他のCDも聴いてみないと、復刻の特徴なのかエネスコの特徴なのかわかりませんが・・・

エネスコ(エネスク)は1881年ルーマニアのリヴェニ村に生まれる。4歳からヴァイオリンを始め、7歳でウィーン音楽院に入学。ヘルメスベルガーに師事。14歳のときパリ音楽院に移りマルシックに学びます。1900年、コンセール・コロンヌでソリストとしてデビュー。1925年にアメリカで出会った少年の師となることで教師としての名声も高まっていきます。その少年の名はメニューインです。その後門下にはグリュミオー、フェラス、ギトリスなどが続きます。日本から行った豊田耕兒も彼に師事しています。パリ音楽院では作曲をマスネーに学び、作曲家、指揮者としても活躍しました。豊田耕兒に因ると、エネスコは驚くべき才能、記憶力の持ち主で一度聴いた曲は全て頭に入れて、弾き直すことができたそうです。例えばバッハのカンタータも150曲程度頭に入っていて、それをいつでも取り出してきて弾いてみせて音楽の骨格を教えることができるような人だったということです。

何とも味のある演奏と言いましょうか、エネスコのキャリア、豊田耕兒の話から見てもわかるように、彼はヴァイオリニストであるよりもまず偉大な音楽家であったのです。中でも印象的なのはショーソンの詩曲。ショーソンのロマンティシズム、ポエジーはこのような幻想味あふれる自由自在な演奏でこそ生きてくるのではないでしょうか。

“伝説”とも言えるヴァイオリニストの演奏が、このような臨場感あふれる素晴らしい音で現代によみがえったことを喜ばしく思わずにはいられません。