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楽器本体について (楽器本体に関する研究について)

インテルメッツォの第31回です。

今回は「研究」における過ちのシリーズの中で、楽器についての「研究」、 すわなち製作、楽器の調整などの研究で陥りやすい罠について述べます。

材料の問題

皆さんが材料について、ご覧になってすぐわかるもの、気になる部分としては裏板の杢の出方があると思います。
これについては、以前にも色々なところで述べましたが、杢の有無と音の良し悪しは音響的には関連が無いのです。 杢があるものが良い材料と思いこんでいるような方もいらっしゃいますが、それは間違いです。

杢の有無同様、信じられ易いものとしては、材料そのものについての言及があります。

「ユーゴスラビアの材料」

「100年前の材料」

「古い教会(建造物)がとり壊されたときに取ってきたもの」

「製作者の先代の時代からストックされていた特別の材料」

などの言葉です。

これらは本当のこともあるでしょうが嘘のこともあります。
要は確かめようがない(特に楽器として出来上がってしまってからは)ことがほとんどです。

また、「良い材料で作ったから良い音がするはずである。」という信仰もあります。
これはまずは真理なのですが、 でももし凡庸な製作者の手にかかったら、どんな良い材料だってダメな楽器になってしまいます。
非凡な製作家は、材料が多少悪くとも、製作中に様々な工夫、修正を試み、 自分のイメージに合った楽器に仕上げてしまうことができます。 材料にあまり左右されること無く、いつでもある程度の水準の楽器が作れるのです。 それが、経験とか勘とか言われるものであって、良い職人に備わっているものなのです。

製作者の中には、良い材料を使ったのだから、 「今良い音がしないのはあなたの弾き方が楽器に合っていないからだ。」 「もう少し弾きこめば、良い音になるはずだ。」 などと言う人もいます。
ある程度は、新しい楽器には未知数の部分がありますので、「これから先のこと」 を、それこそ経験や勘に基づいてアドヴァイスするということは大事でしょう。しかし、 演奏者が首を傾げているのに、上記のような発言をするのはちょっと考えものです。 材料を隠れ蓑にしてはいけないと思います。

でも、上記のような材料にまつわる話も、購入した後や、90%購入の意思は固まったがまだ少し迷いがあるというような時に聞くのなら効果的です。

愛着を持って楽器に接する、思いきってこの楽器に決める。 そういう場合、「ドラマ」が必要な方もいるからです。

しかし、いつも申し上げているように、楽器に接する以前に、この手の情報を仕入れててしまうと 「直感」という健全な感覚を麻痺させる原因にもなると思います。そのためにどれだけの人が後で後悔することになるのでしょうか。

ニスの問題

ある時期、楽器を早く量産するためにアルコールニスが多用されたということから、 アルコールニスは質が悪く、オイルニスの方が高級というような認識が生まれました。

しかし、それは見事な間違いです。名工の中でもアルコールニスを使用した人は数多くいますし、アルコールニスでも柔らかい良質のニスは沢山あります。現在の新作メーカーの多くも、主流はアルコールニスのはずです。

一方、オイルニスを使ったために、3年以上経っても全くニスが乾かないというような楽器も あります。
このような楽器は、扱いにくいばかりでなく、音の点でも必ず問題が生じます。

ニスの効能は、乾燥する過程で、木部に浸透し、木部を硬化させるという ことです。木部を硬化させることで、木自身の経年変化と相俟って、振動板としての特性がより良い状態に向かうのです。
あまりにもニスの乾燥が遅いと、木部に浸透し、木部を硬化させるという最終目的がなかなか達成できないことになるのです。 その意味でオイルニスは失敗も起こりやすいのです。

ドイツ等の量産ヴァイオリンのカタログを見ると、上級グレード品には、必ずと言って良いほどオイルニスを使用と書いてあります。
これは、オイルニス=高級=高く売れる という心理的効果を期待したものに他なりません。
カタログのデーターを鵜呑みにすることなく、ニスそのものの質や塗り方を見てください。 (そもそも量産品自体、私はお薦めしませんが・・・・)

「ストラディヴァリのニスには秘密は無い。」「ニスに固有の音は無い。」 というのがもはや定説の今、アルコールニスかオイルニスかで楽器の良し悪しを判断することは全くのナンセンスなのです。

しかし、スプレー方式で量産楽器に使用される速乾性のニスは避けた方が賢明です。
すぐに表面が乾燥硬化してしまい、木部に浸透する作用は期待できないからです。 この手のニスは良い楽器にはまず使われることはありません。


最後に、楽器選びの流れをまとめてみましょう。

1) 材料云々ニスの種類に惑わされず、まず、楽器のつくり、健康状態を見ます。

2) 1)に合格した楽器だけ音を出してみて。嫌いな音の楽器はまず排除します。

3) 2)の中から音量や音の立ちあがり(反応)などを見て、最後に音色の好みで絞りこみます。

もし絞りきれなかったとしても、そこに残っているのはどれも優秀な楽器(道具)で、 あなたの好みにも合っている楽器ばかりのはずです。 どれを選んでも問題はありません。ずっと付き合っていけるはずです。

3)の段階で迷ったら、ルックス(杢やニス)で決めるのも悪くありません。長い付き合いになるのですから、見ていて飽きない、うっとりするというような要素も大事です。(でも1)の段階でやってはダメです!)
そして、仕上げにその楽器のドラマを聞いてお終いです。

材料、ニスについての研究、情報収集があまり意味の無いということをご理解いただけましたでしょうか。

次回は調整等に関する研究について。

更新は3月初旬を予定しております。 どうぞご期待ください。