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シューマン ヴァイオリン・ソナタ全集 | フォルクハルト・シュトイデ

シューマン ヴァイオリン・ソナタ全集 CD
ヴァイオリニスト、フォルクハルト・シュトイデの録音風景

Camerata / CMCD-28163
シューマン ヴァイオリン・ソナタ全集

シューマン:
ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調
ヴァイオリン・ソナタ第2番 ニ短調
ヴァイオリン・ソナタ第3番 イ短調

ヴァイオリン:フォルクハルト・シュトイデ
ピアノ:ローランド・バティック
録音:2006年9月、2008年2月、9月

あまり広く知られていない、ソナタ第3番が収録されているというのがこのCDのひとつの特徴ですが、この3番のソナタの成り立ちはちょっと変わっています。
1953年10月、シューマンは、ヨゼフ・ヨアヒムの誕生日にシューマン、ディートリヒ、ブラームスのコラボレーションによる作品、《F.A.Eソナタ》をプレゼントしました。1楽章をディートリヒが担当し、シューマンはこのソナタの2、4楽章を担当いたしました。ブラームスは3楽章スケルツォを担当しますが、この曲はその後ブラームスの単体の作品として発表され唯一このソナタの楽曲では人気を博します。(今日でもこの曲はよく演奏されていますね。)シューマンはこの《F.A.Eソナタ》に2つの楽章を追加して、自作のソナタを完成させようとしましたが、それを完全な楽譜にしたためるより以前の1854年2月に精神障害が著しく悪化して自殺未遂を犯し精神病院行きとなってしまいます。それで、この曲はずっと日の目を見ることはなく、ソナタ第3番として出版されたのは、何と1956年、シューマン没後100年を迎えたときのことなのです。シューマンの1番、2番のソナタもそう有名とは言えませんが、そういうわけで、3番はもっとマイナーな曲ということになりますね。

演奏者のフォルクハルト・シュトイデは現在ウィーンフィルのコンサートマスター。
オーストリア生まれとおもっていましたが、実はドイツ、ライプツィヒ1971年生まれ。5歳よりヴァイオリンを始め、ガブリエル・ツィンケのもとで音楽を学びながら、早くも国内のジュニア・コンクールで頭角をあらわし、1987年には銀メダルを受賞。1988年、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学でヨアヒム・ショルツ教授とヴェルナー・ショルツ教授に師事し
ます。 この時期シュトイデはヴォルフガング・マルシュナー教授の特別マスターコースで精力的に学ぶ傍ら、ESTA(ヨーロッパ弦楽指導者協会)国際ヴァイオリン・コンクールで第4位に入賞、フライブルクのルートヴィヒ・シュポア国際ヴァイオリンコンクールで特別賞を獲得しています。また数々の国際的ジュニア・オーケストラにおいても活躍し、1992年にはジュネス・ワールド・オーケストラ、1993年にはグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラのコンサートマスターを勤めました。1994年、ベルリン音楽大学卒業後、ウィーンに移り、アルフレート・シュタール教授の下で更に研鑽を積みました。
1994年11月にはウィーン国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスターに弱冠23歳で就任。更に2000年からはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務めています。
私もリサイタルやマスタークラスで彼の演奏を聴きましたが、確実なテクニックと端正で美しい音を持った人という印象を受けました。ウィーンフィルのコンマスの中ではライナー・ホーネックと並ぶ名手でしょう。

さて演奏ですが、え、シューマンってこんなに爽やかで健康的な感じだったっけ?というのがまずこのCDを聴き通してみての印象。おどろおどろしいところが全く無いのです。
日本人の感覚だと、シューマンというとどこか陰鬱で病的、(実際上記のように最後は精神病院送りになってしまっていますしね)というイメージが強いですね。
だから演奏もどこか狂気じみたところがないと様にならないのではという先入観があるのですが、このフォルクハルト・シュトイデの演奏にはそういったデモーニッシュな面はあまり感じられません。終始、優しい音で包まれ、シューマンの音楽へのシンパシーや愛情を強く感じさせるものとなっています。
事実ドイツの音楽家の作曲家シューマンに対する親愛の情は並々ならぬものがあると聞いています。皆シューマンが好きなんですね。
私たち日本人はシューマンの病歴から、その異常性ばかりを強調しがちですが、ドイツ人から見るとシューマンの音楽には豊かなドイツの自然や詩情があふれているのでしょう。
ですから、このCDにおけるインティメートな雰囲気はよくわかるのです。アクセントは控えめ、テンポの煽りも激しくありません。速いパッセージも短めに軽やかに弾いています。
とは言え、それが日本人の間違ったシューマンの認識だと言われようと、時には(例えば各ソナタの終楽章などでは)もっと激しい、劇的な表現も欲しいような気が私にはいたします。あまりにも美しすぎるシュトイデの演奏に対して失礼かとは思いますが・・・。
なお、録音時の使用楽器についてはライナーノーツには明記されてはいませんが、各種資料に因りますと彼はStradivari 1718をオーストリア国立銀行より貸与されているとのことです。