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サルヴァトーレ・アッカルドのマスタークラス|DVD

アッカルドのマスタークラス Vol.1 / DVD

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アッカルドのマスタークラス Vol.1 

サラサーテ:カルメン幻想曲 (受講生:ルシア・ルケ)
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第3番 Op.12(受講生ラウラ・マルツァドーリ)

収録:2011年 クレモナ Walter Stauffer アカデミー
字幕:英・日・中・韓

サルヴァトーレ・アッカルドがイタリアのクレモナで教えているというのはこれまでに聞いたことがありましたが、そのマスタークラスのDVDが出たということで、早速購入し視てみました。レッスンはイタリア語で行われていますから、日本語字幕は有難いですね。
アッカルドは1941年生まれということで、もう71歳。さすがに頭を見ると歳を取ったなあと思わせます。
ところが、レッスンの冒頭、別室でアッカルドが指慣らしをしているシーンがチラッと映るのですが、そのヴァイオリンの音色の艶や輝かしさはまだまだ彼が現役として健在であることを教えてくれます。
以前のブログ記事若き日のサルヴァトーレ・アッカルド で私は来日公演のTVを視ての感想として「何か楽器が鳴らないというか、弓を押し付け過ぎているのでしょうか、全ての音がつぶれていたように思いました。」とアッカルドを評しましたが、それは撤回しなければいけないとこのDVDの音(2011年)を聴いて感じました。
また、レッスン中に楽器を取り出し、弾いてみせるシーンが何度かあるのですが、その部分でも、テクニック、音とも、70歳を過ぎたヴァイオリニストとは思えない全く申し分の無い演奏を聴かせてくれます。そういった部分も楽しめるDVDだと思います。
気になったのはこのアッカルドが時使っている楽器。ちらっと見えた裏板の杢からは、1718 “Firebird” 、 1727 “Hart”のいずれでもないように思えたのですが・・・・

さて、本題のレッスンについてです。
受講生については、DVDの輸入代理店からの解説がありますので、それを引用します。

サラサーテの『カルメン幻想曲』でアッカルドに指導を受けている女性ヴァイオリニスト、ルシア・ルケは、その演奏風景がYouTubeの動画で10000回以上も再生されている注目の若手。既に完成された技巧を持つはずの彼女が、アッカルドから教えを受けるなんて、まさに鬼に金棒と言えるのではないでしょうか。もう一人のラウラ・マルツァドーリはNAXOSからレスピーギのヴァイオリン協奏曲(8.572332)をリリースしておりその実力は折り紙つき。こちらも、アッカルドの指導を受けることにより、どのようにその音楽が変化するのかを目の当たりにできます。

これを読む限りでは、かなりの腕前の受講生のようです。が、このマスタークラスのDVDを視る限りでは私には判断できませんでした。

カルメンは、通し演奏が終わった後から映像は始まります。受講生ルシア・ルケはこの曲を弾き慣れていないのか、あるいはさらい始めたばかりなのか、譜読みのミス、弾き違えなどを連発しています。それでも、全く恐縮することなく、あっけらかんとしているのはいわゆるラテン気質ということでしょう。そして、日本人の生徒に比べ、先生への質問が多いように思います。自分の練習不足、出来は棚上げしておいて、先生はどういう風に弾くのか、どう考えるのかを、せっかくの機会だからしっかり聴いておかねば損ということなのでしょうか、やはり日本人にはちょっと真似できませんね。日本人だったら萎縮してしまっているところでしょう。
最後にルケが「あとでゆっくり練習するわ」と言ったのには思わず吹き出してしまいました。先生が家でしっかり練習して来なさいとでも言うならわかりますがね。日本なら不謹慎とも取られかねない言動ですよね。でも師弟とはいえ、フレンドリーな関係でレッスンが進む様子は、ちょっとうらやましいところもありますね。

次はベートーヴェンのソナタです。第1楽章、第3楽章が収録されています。
視ての率直な感想ですが、やはり、ソナタ(特に古典的な作曲家のもの)は、指が回る、音程が正確ということだけでは全然ダメだとつくづく感じました。
アーティキュレーション(音の長さ、スラーの有無などの音型)、音の強弱、フレーズ、テンポを奏者がどう考えて弾いているか、それが聴き手に正確に伝わらないと音楽にならないと感じました。奏者の都合で弾くたびにテンポや音の長さ、フレーズの取り方が変わってしまったのでは作曲家の考える音楽が正確に伝わりません。また、同じ音型、フレーズが何度も出てくる場合、それが統一されていなければいけません。そういったところがこの演奏は不完全と言わざるを得ないと思いました。
アッカルドはソナタですから、伴奏者を含めて、テンポや音の長さの指示をしていました。しかし、それはそう細かくはなく、終始ご機嫌で、「素晴らしい」の連続でした。そして、極めつけは楽章間での短いインターバル中の「ブラボー、素晴らしい、ありがとう。だって実に可愛らしいですね」という発言。日本で先生がこんなことを言ったらセクハラ問題にもになりかねませんが、さすがイタリアですね。レッスンでもこの程度は日常茶飯事のことなのでしょうか?
ともあれ、アッカルドのレッスンを居ながらにして覗くことができるという点では貴重なDVDだと思います。近々第2巻も出るようです。