クラシックの愉しみ
横溝 亮一著
角川書店
ISBN978-4-04-110391-3
この本は副題に『アナログ主義者が選んだ名指揮者・名歌手・名演奏家』とありますが、デジタル録音やCDを批判したり、LPレコードやSPレコードを礼賛したりしているものでは全くありません。
アナログ云々の副題は、アナログ期の巨匠クラスについて書いたということであって、録音や再生方式には関係ないものと思います。
著者の横溝亮一は金田一耕助を探偵役とする一連の探偵小説で有名な作家横溝正史の長男で東京新聞文化部音楽担当記者を経て1977年に音楽評論家となりました。この著作は、音楽鑑賞歴70年超という著者が、印象に残る外国人演奏家について書き綴ったものになります。
弦楽器奏者としてはヨーゼフ・シゲティ、ユーディ・メニューイン、アイザック・スターン、ダヴィット・オイストラフ、ヘンリク・シェリング、アルテユール・グリュミオー、パブロ・カザルス、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、弦楽四重奏団としてブタペスト弦楽四重奏団、バリリ四重奏団などが採り上げられています。
誤解、誤認、独断、偏見さまざまあることは承知の上、大方の批判を乞う次第と著者は前書きで述べています。確かに著者自身の好き嫌いをストレートに表現している部分はあると思います。しかし、決して奏者への畏敬の念を忘れてはいません。
また、実際に会ってインタビューをした人間にしかわからない演奏家の側面を鋭く捉えているという点では見逃せないものがあると思います。
なお、巻頭には『20世紀のマエストロ』と題し日本を代表する音楽写真家、木之下晃が撮影した貴重かつ美しい写真が掲載されています。こちらも眼を楽しませてくれます。