バイオリン(ヴァイオリン)販売・専門店・
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初心者(入門)用ヴァイオリンはありますか?

初心者用ヴァイオリンとはいったいどのようなものなのでしょうか?

これは結構多いお問い合わせです。「初心者用のヴァイオリンはありますか?」「練習用の楽器はありますか?」
でもいつも私の答えは「そのようなものは特にはありません。」です。(なぜそんな答えなのかは下をお読みください)
「初心者なので全然良いヴァイオリンじゃなくて良いのですがそんな楽器ありますか?」なんて言い方をする人も多いですね。
でも私の仕事はできるだけ良いヴァイオリンを皆様にご案内することなのです・・・。良くない楽器が欲しいと言われても困ってしまいますね。

結局これらの一連の質問は
「初心者はいったいどのような楽器を買ったら良いのか。」
「初めてヴァイオリンを買うとき、どのような楽器を買ったら良いのか、どのような楽器には手を出してはいけないのか。」
というように翻訳できると 思います。

皆さんおそらく「高いものを売りつけらたらたまらない」と心配されて、随分と屈折した質問になってしまうのでしょう。

それならもちろんお答えすることはできます。

お問い合わせをみる限りでは、多くの方は初心者用の楽器についてこう考えられています。  

1)初心者用の楽器は、初心者のニードに応えた 初心者に弾きやすく、練習しやすい楽器である。
2)初めから良い楽器を持っても、初心者にはその良さが引き出せない。
良い楽器は初心者には鳴らせない。 良い楽器は弾き手を選ぶ。 だから、良い楽器を始めから持つことは 無駄である。

そして、楽器は上手くなって(違いが引き出せるようになって)から良いものに買い換えるので充分という考えの方が 大半を占めます。

ヴァイオリンを教える先生に聞いても同じことをおっしゃるかもしれません。
「あの先生はもっと安い楽器があるにもかかわらず、高い方を薦めた」 と噂されては営業に差し支えるということなのでしょう。

でも、初心者の方は安い楽器で本当に充分なのでしょうか?良い楽器を持つことは全く意味の無いことなのでしょうか?

確かに1)は家電製品など工業製品にはあてはまります。
入門用に機能を省き、低価格と、操作の簡便性をうたったものが確かにあります。
上級者用は性能が上がる反面、多機能で操作が複雑になるのです。

しかし、弦楽器の場合は3億円の楽器も10万円の楽器も基本構造(機能)は全く同じです。
初心者用の楽器は、省力化、量産化によってコストダウンをはかったに過ぎないのです。

弦楽器は、自動車のように、機械化、量産化による恩恵を被ったかというと、 残念ながらそうではありませんでした。 それが証拠には、未だに手作りの弦楽器、しかも200年~300年以上も前のものが 単なる骨董的価値からのみではなく、現役選手として最高のものとして評価されています。

弦楽器は構え方ができるようになると、まず開放弦という、どこも指で弦を押さえないで出す音を練習します。
この音は、また楽器の素(す)の音でもあります。 実はこの開放弦が、各々の楽器の性格を一番良く現します。開放弦が良く響くのは、良く作られた楽器でもあります。

残念ながら、量産品の低価格の楽器では、ヴァイオリンの音は出ますが開放弦の響きが充分ではありません。
これは、実際に、量産品の楽器と手工製の楽器を開放弦だけでも比較して聴いていただければ、どなたにも その違いはおわかりになると思います。

ピアノは鍵盤を押せば音が出ます。(ピアニストの方には怒られますが)音を出すだけなら猫でもできます。
しかし、弦楽器はそうはいきません。
ですから、初心者の方はできるだけ音の出しやすい、響きやすい楽器を選ばなければならないのです。

初心者の方が最初に習う開放弦の響きが貧弱では、その後の学習が上手く行くはずがありません。

幼児はお母さんの言葉を聴いて言葉を学ぶと言います。
ヴァイオリンもそれと同様、最初に楽器を通して出した音の響き、最初に聴いた自分の音の響きが、 その人のその後の楽器人生の音を左右するのです。

確かに初めのうちは、良い楽器を使ってもその楽器の性能を充分に使いきることはできないかもしれません。
だからといってそれが無駄になってしまうわけではありません。
楽器に、良い音というものを、毎日、無料でレッスンしてもらえるのですから。
言わば、良い楽器は第二の教師なのです。

以上のことより、初心者の人も初めから良い楽器を持つことの意味は十分にあるのです。

楽器は道具です。

道具は初心者、ベテランを問わず良いものが使い易いはずです。
良いヴァイオリン(道具)を手に入れられれば、楽に響きますので、 初心者の方でも比較的楽に綺麗な音が出すことができます。

ヴァイオリンを習いだすと必ず言われる「もっと力を抜いて。」というのは、 良い道具があって、初めて可能になるのです。
つくりの悪い楽器では音が「すっ」と出てくれないために、つい余分な力を入れてしまいます。
そうすると、はっきり音が出ないばかりか、汚い音になってしまうのです。

ですから、上手くなってからでは遅いのです。
むしろ、少しでも早く上手くなるために良い楽器(道具)を使うのだと私は考えます。

ヴァイオリンを長く続けないと予め決めているのでしたら、値段が安くて、音さえ出ればどんな楽器でも良いと思います。
ですが、本当に上手くなりたい長く続けたいという気持ちで始められるのであれば、楽器(道具)は非常に重要です。
それに安い楽器を買ってもすぐに買い替えるようでは、経済的にも結局無駄が生じます。
だったら、その分を、最初からつぎ込めば良いものも買えます。

結局、初心者用の楽器と銘打って販売されている楽器の正体は、もし途中で学習をやめてしまうようなこと があっても、お客さんの懐が傷まないように、売り手サイドで適当に価格設定をした量産楽器ということなのです。

ですから、そこには、初心者の方が、何とかして上手くなるようにとか、できるだけ弾き易い楽器をというような気持ちは これっぽっちも含まれていないのです。


話はがらりと変わりますが、包丁はスーパーで買えば1,800円ぐらいで買えます。
ところが、刃物専門店に行って買おうとすると最低でも5,000円はしてしまいます。
専門店の話では、お薦めは10,000円ぐらいのものだと言います。

1,800円の包丁も10,000円の包丁も切れることには変わりありません。
10,000円というと、随分高く感じますし、贅沢にも思えます。
しかしながら、手入れをしながら、長く使うことを考えると、やはり10,000円のものには1,800円の包丁は勝てません。

良い包丁は、切れ味がもつばかりではなく、少し砥ぐとすぐに切れ味が回復します。

また、適度の重量があり、手に馴染む感じがし、使い易いのです。

安い包丁は切れなくなると、どんなに研いでも刃先がシャープな状態に戻りません。
切れなくなったら、また買い替えです。

また、何となく持ったときの質感が頼りありません。

これは専門家に聞くと、製法の違い、材料の違いだそうです。

包丁もまた量産化の恩恵を被ることのできなかったものの一つなのでした。

良い道具の条件とは、手入れがしやすいこと、使いやすいこと、体に馴染むことでもあります。
それが、長く使えること、使い心地がアップすることにつながります。


良い包丁を持てば切りにくいトマトなどもスパっと切れます。
良い包丁はその切れ味が持続します。
良い包丁は少し研ぐだけで、切れ味が回復します。

切れない包丁を使うと切れなくてイライラするだけでなく、刃がすべって手を切ったりして危険でさえあります。

悪い道具は危険さえ産み出すのです

楽器の場合は悪いものを使っても怪我をしたりすることはありません。命に別状はありません。
しかし、あなたの耳(感覚)を傷つけ、音楽生命にも影響があると言ったら脅かしすぎでしょうか?

本格的材料、伝統的製法によって作られている『本物』の楽器こそ、初心者の方に真っ先に触れていただき 使っていただきたいものなのです。


「弘法筆を選ばず」ではないですが、名人はどんな楽器でもそれなりの良い音を出してしまいます。

ところが、まだ熟練していない人は、今弾いている楽器の音以上の良い音を作り出すことはなかなか困難です。

何故でしょうか。

それは、名人は、名器と毎日付き合うことで、良い音のイメージが頭の中にしっかり焼き付けられているからなのです。 名器に毎日、良い音、響きというものを教えられているからなのです

ですから、そういう楽器に、日々教育された人は、楽器が多少性能の悪いものに変わろうとも、
その楽器の性能を限界まで使い切って、頭の中にある「良い音」を再現してしまうことができるのです。
それで、名人は楽器による差があまり出てこないのです。

でも似たようなことは体験することが出来ます。

貴方が、今回、良い楽器に買い替えたとします。
その良い楽器で暫くの期間練習し、何かのときに、前使っていたあまり良くない楽器を弾いたとします。

すると、きっと

「この楽器こんなに良い音だったっけ?」という感想を抱くに違いありません。

実際、以前より良い音がしているのです。

これは、良い楽器によって、貴方の頭の中の音のイメージが良いものに置き換えられたからに他なりません

以上のことより、たとえ初心者の方でも最初から良い楽器を持つ必要性が証明されたのです。

初心者の方には、腕もないのに良い楽器を弾くのは恥ずかしいとか、今の技術では良い楽器を弾いても差が出ない とおっしゃる方がいらっしゃいます。
確かに現時点では100%その楽器の実力を引き出すことはできないでしょうが、上記のように、毎日、良い楽器に、 良い響きというものを 教えてもらえる効果は何物にも替え難いのです。

パソコンや家電のようにモデルチェンジが頻繁に起こるもの、流行のあるものであれば、腕前やニーズに応じて買い替えられて、 常に最新のものを買われるという考え方が合っていると思いますが、ヴァイオリンの場合は、300年前から大きな変革はありません。
むしろ古いものが良いとさえ言われている世界なのです。
ですから良いものを長く使われるのが、練習のためにも、楽器のためにも、そして経済的にも良いと思うのです。

結論としては、初心者の方が楽器を選ばれるときには、「初心者用」というキャッチコピーに踊らされて 安価なだけの楽器には手を出さないことです。 最初から、本格的に作られた良いものを手に入れられることが大事だと思います。

【まとめ】

初心者の方たちがどのような楽器を選ぶのが良いかまとめてみましょう。

1)つくりが良いこと。本格的材料を使用し、丁寧に作られている楽器。

きちんと作られた手工品ができれば望ましい。
(手工品であれば良いということではない)

2)楽器(道具)としての性能がしっかりしているもの

(開放弦の)響きの良い楽器
音量がある楽器
発音(音の立ち上がり)が良い楽器
弾き易い楽器

(ご注意)
部品の形や色、材質で楽器の良し悪しを判断したり、ネックの太さで弾きやすさを決めたりする方がいらっしゃいますが、これらの部分はあとから交換したり、調整したり出来るものです楽器の本質とは関係無いことが多いので、惑わされないようにしましょう。