五嶋みどりさんの演奏に魅せられて24歳からヴァイオリンにチャレンジ

お 客 様 の 声 4. (川崎市在住 堀田 剛生 さん )


堀田さんと 愛器 Kenji Miyagawa 2006

サラサーテ 北見(以下S): 今回はお客様の堀田 剛生さんのご紹介です。

堀田さんは最近お家をリフォームされ、その際に防音のヴァイオリン練習室件オーディオルームをお作りになられました。本日はそのお部屋にお邪魔させていただきお話を伺いました。

堀田さんは現在高級オーディオ機器製造メーカーに勤務され、製品設計を担当されています。 今日は音楽、オーディオとの関わり、そしてヴァイオリンとの出会いなどについて色々とお話をお聞きしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

堀田さん(以下H): こちらこそよろしくお願いいたします。

S: 堀田さんは確か大人になられてからヴァイオリンを始められたのでしたね。

H: はい。24歳のときに始めました。

S: それまでの間は何か他の楽器をやられていたのでしょうか?

H: 私は物心付く前、確か4歳頃からだったと思いますが、ピアノを習わされておりまして、夕方、友人達はまだ遊んでいるのに何故か自分はピアノの練習をする為にお遊び中断、遊んでいた友達とは「さようなら、また明日」という毎日でした。 音楽自体は嫌いではありませんでしたが、ピアノの練習もレッスンも苦痛以外の何物でも無く、辞められるものなら辞めたいと思っていました。
そんな感じですから、小学校高学年になり珠算塾へ通い始めたのをきっかけに、ピアノは辞めてしまいました。 それ以来、24歳でヴァイオリンを始めるまでは学校の音楽の授業を除いて、楽器とはノータッチでした。

S: それがどうして24歳のときにヴァイオリンを始めようと思われたのですか?

H: 小・中学校時代は専らJ-popを聴いていたのですが、高校生になるとRockやJazzそしてClassicも聴くようになりました。
そんな中、たまたまCDショップで目につき購入したのが、五嶋みどり の弾くチャイコフスキーとショスタコーヴィチ のヴァイオリン協奏曲のCDだったのです。
もちろん、この時は五嶋みどりもチャイコフスキー、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲を知る由も無く、単に日本人の中にもヴァイオリンでこのように世界的に活躍している人がいるんだなというくらいの軽い驚き、それがそのCDを購入した動機でした。
何せ、ジャケットにはMIDORIとしか書いていないものですから、ずっと五嶋みどりを 「ゴシマミドリ」 だと思っていたくらいですから(笑)。後で大恥をかきましたけれど。

S: そのCDを聴かれての印象はいかがでしたか?

H: 驚嘆の余り言葉になりませんでした。 クラシック音楽、それもヴァイオリン音楽ってこんなに魅力的なものだったのかと思い知らされたのです。 その後、著名とされるヴァイオリニストの、いわゆる名盤と言われるCDを買い漁ってみましたが、自分にとって五嶋みどりの音楽が特に感動的だったのだと暫くして判りました。
始めから自分が最も好きなヴァイオリニストのCDを引いていたというのは、今でも思いますが、なんて奇跡的な出会いだったのだろうと不思議に思いますね。

S:まさに運命的な出会いだったわけですね。

H: それから1年も経たず、今度は五嶋みどりの生演奏を聴く機会がやってきました。 当時、中高生向けにみどり教育財団(現在のNPO法人ミュージックシェアリング)が毎年行っていたウィークエンドコンサートです。
忘れもしない、1999年6月19日(土)、場所は横浜みなとみらいホールでした。
このコンサートは、私にとって、本格的なコンサート専用ホールで聴く初のクラシックコンサート体験でもありました。
当時出来たてホヤホヤの横浜みなとみらいホールという素晴らしいシチュエーションで、自分に感動を与え続けてくれるあの五嶋みどりのコンサートが聴けるということで、行く前から大変興奮しました。

S:それで、そのコンサートはいかがでしたか?

H: コンサートが終わり、余りの感動に言葉が出ず放心状態、兎に角自宅へ向かって歩いていたのでしょう。気がついたら自宅に着いていました。

S:みなとみらいからこの川崎のご自宅まで歩かれたのですか!それは驚きですね。よほど演奏会が強烈な印象だったのでしょうね。確かに五嶋みどりの演奏というのは、聴衆の心をわしづかみにして離さないようなところがありますからね。 生で聴かれて、その迫力に本当に圧倒されたのでしょうね。
それで、それからすぐにヴァイオリンを始められたのですか?

H: いいえ、そうではありませんでした。確かにこのような体験を通し、ヴァイオリンに近づきたいと思う様にはなりましたが、当時は音楽と同じくらいオーディオにも興味を持っており、そのため大学は電子工学分野へ進んだのです。そして、在学中は学業に専念していました。
結局、念願かなってヴァイオリンが始められることとなったのは、就職してボーナスを2回程もらった後でした。

S:サラサーテに初めてご来店になられたのは、その頃だったということですね。
そのときに当店をお選びになられたのはどういった理由からだったのでしょうか?

H: 高校生の頃、ヴァイオリンについてネットで色々とサーチしていましたが、弦楽器サラサーテのHPは当時から楽器の写真が高解像度で綺麗、説明も具体的でヴァイオリンファンの心をくすぐるHPでした。 弦楽器専門店といえば、数百万円以上の本格的なヴァイオリンであれば価格がaskになっているのが当然という、怪しい骨董屋的世界という印象がありましたので、HP上でも明瞭な価格表記というのは信頼感にもつながりますし、soldになってもHPに写真や説明が残ったままであるというのは、この楽器に関して最後まで責任を持ちますという自信の表れだと思います。
他には、こんな良心的な弦楽器店は見つかりませんでしたし、私の自宅からも近いこともあり、サラサーテ以外の選択肢は思い浮かびませんでした。

S:ずっとHPを見ていただいていたのですね。それはどうも有難うございました。
確かに 現在でも価格がaskになっているHPは結構ありますね。何せ、HPを作った当時は、ある同業者から「そんなもの(HPのこと)を作ったら他店に情報がバレてしまうじゃないか」と言われたくらいでしたから(笑)。いかにこの業界が秘密主義だったかということの現れだと思います。
ところで、堀田さんにとって良いヴァイオリン、良い弓とはどのようなものなのでしょうか?また、選ばれるときはどのような基準、お考えで選ばれるのでしょう?

H: G線からE線までバランス良くしっかり音量が出た上で、パーソナリティの少ない音色・発音を持つのが良いヴァイオリンだと思います。癖の少ないピュアなキャンバスの上に自分の音楽を描く。 そのためには楽器自身の個性は少ない方が良い楽器だと私は考えます。

弓は、奏者の方が最も自然体となる持ち方をしたときに、元でも先でも変わらないくらいの弾きやすさ・重さを感じられる良好な重量バランスを持ち、スティックのしなり方がしなやかでありながら、しっかりとした剛性を持ち、楽器の持つ音色をしっかりと引き出すポテンシャルを持つのが良い弓だと思います。

音の様な抽象的なものの場合、その印象はとてもあやふやで、その時の体調などによってもまるで感じ方が違ってしまう事があります。 私の場合は起床してから2時間以降の午前中が最も感覚が敏感で、楽器選びの様に繊細な判断を要求される作業はできるだけその時間に行うようにしています。

楽器を試奏するときは、1つの楽器を触っている時間を出来だけ短時間になるように心掛けています。
次から次へと素早く移っていく様に比較すると、楽器の悪い癖に慣れてしまうことを防ぎつつ、印象がおぼろげ になるのを防ぐことができ、的確な判断が出来ると思います。

S:体調によって楽器の印象が違ってくるというのは本当にそうですね。また、楽器自体も湿度や温度の変化によってコンディションが毎日変化しています。そうすると微妙に音も変わりますね。まさに楽器は生き物と言えると思います。
ところで、堀田さんは最初に『サラサーテ』をご購入いただき、次に宮川賢治氏の楽器をお求めいただきましたが、それらの楽器のご感想などをお聞かせ願えますか?

H:初めての楽器選びという事で、色々とサーチしたところ、本格的なものを一式揃えるとなると、全部で50万円は最低でもかかるなと思いました。 それでこの予算を北見さんへ伝え、いくつか用意して頂いた楽器の中から選びました。 選ぶと言っても、これから習い始める訳で何も弾けませんので、北見さんに音を 出して貰ったり、弦を指で弾いて判断しました。
結果的には25万円のサラサーテと10万円の弓(どちらも税抜価格)に決まったので、 ケースや松ヤニ、肩当てを買っても予算より10万円程安く済みました。 このときに選んだ楽器は、今でも予備として所有しています。 ヴァイオリンも弓も、この価格では有り得ないクオリティで、超お買い得だったと今でも 思っています。

それから2年ほど経ち、多少楽器も弾けるようになってきたので、今度は本当に自分が弾 きたいと思える楽器を選び、所有したいという気持ちが湧いてきました。 度々、弦楽器サラサーテへ通って色々な楽器を弾かせて頂きましたが、その時見せて頂いた宮川さん製作の2006年製Antoniazzi model に一目惚れしました。

まず見た瞬間、これぞ名器といった風貌、これは良い 音が出るだろうと予感させられました。試奏してみたところ、出来たばかりという事もあり、音量やG線の力感にはやや不満 がありました。しかしベースとなっている音色は私が欲していた音でしたので、この程度の不満点はその後の調整でいかようにでもなるだろうと踏んで購入しました。
それからは、調整を何度かお願いしたリューテリア・ガンさんのおかげもあるかとは思いますが、3年ほど経った後、突然当たりが付いたように良く響くようになり、今では何の不満も無くヴァイオリンを弾くことが出来ています。

S:まず、つくりや性能の良い楽器を選ぶということ、そしてご自分に合う楽器を選ぶということが、何と言っても楽器選びの基本だと思いますが、購入後それをカスタマイズして本当に自分のものにしていくという作業、言ってみればヴァイオリンを育てるというイメージでしょうか、それがヴァイオリンの場合は大切だと思いますね。「弾き手」、「楽器」、「調整する職人」の三者の共同作業によってヴァイオリンの音はどんどん成長していくからです。堀田さんの場合は見事にそれを実践されていらっしゃると思います。
それでは、最後の質問になりますが、弦楽器サラサーテの扱う楽器、弓について全体的な印象をお聞かせ願えますでしょうか。

H:他店ですと音を出す以前に、これはヴァイオリンとして如何な物か? と思ってしまう、強烈な個性ある楽器が混ざっていることがあり、それを排除しなければいけないと思うだけで疲れてしまうのですが、北見さんが選別されてきた楽器の場合は、たとえ低価格な楽器であっても、そのレベルの楽器は排除されていますので、初めから本気で試奏出来ます。 さらに価格設定が明瞭ですし、北見さんのお人柄といい、知識の奥深さといい、安心感がありますね。
ただ、これほど購入者にとって都合の良いお店であっても、皆さんにとっての最良のパートナー(楽器)は一度来店しただけでは見つからないかもしれません。 その際は「今ある楽器の中ではこの楽器が自分に一番合っていると思うけど、もう少しこうであって欲しい」といった感想を北見さんへ伝えておくことだと思います。そうすれば、後日きっとパートナー候補をいくつかご紹介頂け、いつの日か最良のパートナーに出会えるに違いありません。
まずは一度来店されて、好みや要望を伝えておくことだと思います。

S:堀田さんがおっしゃられたように、お客様のご要望、お好みを知らなければ、その方にとって一番良いものをご提案することは本当に不可能ですからね。
でも、来店されていきなり「この中でどれが一番良い楽器なんですか?」のような聞き方をされるお客様もいらっしゃるのですよ。その方にとっての良いもの、良いと感じていただけるものは、まず私がその方を知らない限りはご提案できないのですがね・・・。 そういう方はもしかしたら「何と言ってもイタリアの楽器が一番ですよ!この製作者のものを買っておけば大丈夫、作者が死んだら絶対に値段が上がるよ!」的な売り方をされた方がピンと来るのかもしれませんね。でも私にはそういった売り方は絶対にできません。良いヴァイオリンはその人その人によって違ってくるはずのものだからです。
これからも、初心を忘れず、お客様の大切なパートナーをお選びするという気持ちで仕事を続けていきたいと思います。 本日は楽しいお話、どうも有難うございました。

サラサーテ北見からのコメント

五嶋みどりに導かれるようにして、ヴァイオリンの世界にのめり込んでいかれた堀田さんのお話、本物だけが持つ影響力の凄さがひしひしと伝わって来る実に感動的なお話でした。だからこそ、若いうちに本物に接することが大切なのですね。改めてその重要さを認識させていただきました。 最近私もBS放送で『五嶋みどりがバッハを弾いた夏・2012』を視る機会がありましたが、五嶋みどりの演奏スタイルの変貌には正直驚かされました。放映を視るまでは、求心的、熱狂的、言葉は悪いですがちょっと力任せなバッハをイメージしていたのですが、全然違いました。ピリオド奏法を取り入れながら、自然で伸びやかな、宇宙に繋がるような素晴らしいバッハでした。五嶋みどりは、人より楽器を上手く操れるヴァイオリニストの段階から、素晴らしい芸術家に飛躍したのだなあと実感させられました。

堀田さんはいつもご自分で念入りに試奏されて楽器や弓を決められるので、私からアドバイスをすることはほとんどありません。それはご自分なりの比較方法、判断基準をきっちりお持ちになられているからなのです。
年間60回~80回は通われるという豊富な演奏会の観賞体験、趣味から今となってはお仕事にもなったオーディオの音の探求が、堀田さんの耳を鍛え、感性を磨いたことは想像に難くありません。その結果獲得された楽器比較の方法論、音を測るモノサシは、あたかも信念のように、決して揺るがぬものとなっているのです。
今後は、ご自身の設計されたアンプを通じて、再生芸術の世界も極めていかれるのではないかと思います。今後のご活躍を期待しております。

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