チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲・CD 3種 聴き比べ|ハイフェッツ

GS-2050LIVING STEREOXRCD2

   GS-2050                                            82876 67896 2                  JMCXR-0009

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
ヴァイオリン:ヤッシャ・ハイフェッツ
フリッツ・ライナー指揮  シカゴ交響楽団
録音:1957年 4月

本日はハイフェッツのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のCDのご紹介です。演奏については定評のあるものですので、今さら改めてご紹介するまでもないでしょう。それで今回はハイフェッツが主役というよりも、同一録音、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲がCD化される過程、いわゆるマスタリングでどのように音が変わるかにスポットを当ててみました。

一番左の画像GS-2050は19cm、2トラックオープンリールテープからCD化したもの。これも一種の復刻ものに該当するでしょう。
真ん中の 82876 67896 2はRCAのLIVING STEREO という高品質録音をDSDリマスタリングしてCD化したもの。(SACD&CDのハイブリッド盤ですが今回は機器の関係でCD層で試聴しています。)
そして一番右のJMCXR-0009はXRCD2というシリーズのもので、オリジナルのマスターテープに遡って、そこから丁寧にマスタリング作業を行いCD化したというものです。
オリジナルのテープというものはたいてい海外の倉庫などに眠っていますから、まずそれを探し出し、丁寧に修復してデジタルのマスターを起こすという大変時間、手間のかかる作業を行っています。
オリジナルマスターというのはとても貴重なものなので、たいていは門外不出です。ですからマスターからダビングしたテープを作成し、それをもとにLPやCDは作られます。マスターからのダビング回数が増えれば増えるほどそれだけ音の鮮度は落ちるということになるのです。

オープンリールテープといっても若い方にはピンと来ないかもしれませんが、オープンリールを参考にしてみてください。逆にすぐにおわかりになられた方は、相当年季の入ったオーディオマニア、音楽マニアということになるかと思います。
CDが世の中に現れる前は市販されているソースとしては、LPレコード、オープンリールテープ、カセットテープでした。もちろん最も普及していたのはLPレコードですが、音を追及するオーディオマニアの中にはオープンリールを収集している人もいました。それは、LPの場合は内周で起こる歪が避けられず、テープの場合はそれが理論上発生しないからです。またパチパチというスクラッチノイズもレコードの場合はどうしても気になりますね。音を追及する人にはそういった歪やノイズは観賞上許せないものだったのですね。
私も小学生の頃(歳がバレますね)そういったオープンリールテープのソースだけを収集しているマニアのお宅で自慢のコレクションを聴かせていただいたことがありました。しかし残念ながら今となっては肝心の音の記憶は無く、その後にごちそうになった美味しい焼き鳥、その焼く煙のことしか覚えておりません。

余談はさておき、ハイフェッツの3種類のCD、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の試聴に入りましょう。便宜上GS-2050を(A)、LIVING STEREOを(B)、XRCD2を(C)と呼ばせていただくことといたします。
マスターテープに最も近いのは理論上(C)のはずです。
確かに(C)を試聴してみますと、ダイナミックレンジの広さ、ホールの空気感の再現、各楽器の定位など、1957年の録音とは思えないものがあります。ただ、ナマナマしさや迫力は格別なのですがヴァイオリンソロの重音やE線の高い音などが少々歪っぽく、きつく響く瞬間もあります。輪郭は明確なのですが、少しエッジが立ち過ぎという感じでしょうか。もう少し音に潤いや滑らかさがあっても良いかもしれません。

それに比べますと(B)はダイナミックレンジが狭く、全体的に大人しい感じです。ヴァイオリンソロの音像も奥に引っ込み気味のような気がいたします。反面、音に落ち着きがあり、滑らかさが感じられます。ハイフェッツとしては意外に感じるかもしれませんが、音の温かみも感じられます。高域が滑らかなせいで録音の古さによる暴れ、ざらつきなどもあまり気になりません。オーケストラの左右への広がり、ソロの音像が前に出過ぎないこと等、むしろ実際のコンサートの雰囲気、ホールで実演を聴いているような雰囲気を上手く演出してくれているとも言えます。ですから曲として、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を観賞する上での不満はありません。しかし正直申しまして、ハイフェッツのあの鮮やかな技巧を聴くという点ではどうしても若干の物足りなさ、不満を感じざるを得ないのです。

驚きなのは(A)です。オリジナルマスターテープからの距離(ダビング回数)という点ではおそらく(C)や(B)よりも不利なはずですが、全くそれを感じさせない音です。残念ながら私はハイフェッツの生音を聴いていませんが、想像上のハイフェッツのヴァイオリンの音に最も近く感じるのがこの(A)のCDです。キレがありながら、音の厚み、温かみを失わず実に魅力的です。何より音楽に生命感、勢いがあります。オケの強奏部分で録音の古さから来る高域の歪をやや感じますが、ヴァイオリンソロ部分においては弱音から強音まで伸びのある音が聴けます。ハイフェッツの真髄ここにありという感じですね。

同じチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の録音がマスタリング過程や復刻過程でこうも印象が違ってしまうことに驚きを禁じ得ませんでしたが、同様のことは再生装置の違いでも起こり得ると思います。自分の演奏がどう編集、リマスタリングされてCDになるのか、そしてそれがどのような再生装置で聴かれるのか・・そんなことまで演奏家が考えてはいられないでしょうが、それによって演奏の印象まで変わってしまうとしたら演奏家にとって大きな問題ではありますね。
しかし、最近はYouTubeで聴いたり、MP3のような圧縮音源でダウンロードして聴いたりというのが流行になってしまったので、録音の違いがどこまで顕著になるかわかりませんね。