ダヴィッド・オイストラフ|イザイ 無伴奏ソナタ第3番“バラード”

ダヴィッド・オイストラフCD

VANGUARD/OVC 4080-2

イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタ。最近全曲入りのCDも数多く出ていますね。まあ流行の名曲の一つになっていると思います。
今はそれこそ音大生、音高生も普通に弾くようになっていますが、昔はそれほど弾かれる曲ではなかったのでしょうか、往年の名手による演奏(録音)を見つけることができません。
それもそのはず、全曲録音が世界で初めて行われたのは1971年のことなのです。(因みにそれを成し遂げたのは日本人の和波孝禧氏で、その時彼はまだ26歳だったのです。)

そんな中で第3番“バラード”だけではありますがダヴィッド・オイストラフが録音に残してくれていたことは大変嬉しいことです。録音年代は1953、54年とのことです。

演奏は大変素晴らしいものですが、特に中間部分の6連音符が続く箇所の切れ味は他のどのCDからも聴くことができないものです。ただ、それがただ機械的な正確さを持って弾かれるだけでなく音楽的に流れているところがすごいところだと思います。何回も同じところを聴き直してみますが、すーっと何のひっかかりも無く流れていってしまいます。
良い演奏というのはこのように、良い意味で、聴き流せるせるものではないかと思います。もちろんそのような演奏の印象が薄いということではないのですが、恣意的、作為的な演奏は何か聴いていて妙に心にひっかかったり、聴いた後に後味の悪さが残ったりするような気がします。

オイストラフがイザイの無伴奏全曲を残してくれなかったことは、この3番の素晴らしい出来栄えからすると残念で仕方ありませんが、J.S.バッハの無伴奏ソナタ&パルティータもオイストラフは全集を残していません。大家のディスコグラフィーにも意外な穴があるものです。

ところで、以前オイストラフの高弟であったオレグ・クリサ氏のレッスンを聴講したことがあるのですが、クリサ氏は、かつてオイストラフがこの曲の最後早いパッセージが続くところで急にテンポを遅くしたのを聴き、さすがのオイストラフも弾けないのかなとがっかりされたそうです。しかし家に帰り楽譜を良く見ると、その箇所にはpoco a poco slargando(少しずつ遅く)と書いてあり、「はっ」とさせられたと言っておられました。
ほとんどの演奏者が piu mosso から最後までは一気に突っ走って弾き切っていると思うのですが、作曲者の指示は違っていたのですね。

なお、このCDは3枚組ですので他に

プロコフィエフ    ソナタ第1番
フランク           ソナタ
ベートーヴェン   ソナタ第9番 “クロイツェル”
ルクレール        ソナタ第3番
他チャイコフスキー、ブラームス、グラズノフ、ハチャトリアン等の小品

等の曲が収録されており、どれも聴きごたえがあります。

録音はモノラルですので音の広がりこそありませんが、ノイズも無く大変聴きやすいものです。オイストラフのふくよかで厚みのあるヴァイオリンの音色、そして鋭く閃く技巧が存分に味わえます。