ヴァイオリンを買う時、鑑定書・証明書は本当に必要なの?・その9

ヴァイオリンを買う時、鑑定書・証明書は本当に必要なの?第9回(最終回)

ヴァイオリン(弦楽器類)の証明書・鑑定書についてのお話の第9回目、ついにこれが最終回です。

094330これまで順を追ってこのブログをお読みいただいてきた方には、ヴァイオリンに付く鑑定書、証明書というものが、どのような性質のものであるかおわかりだと思います。そして、それが必ずしも絶対的な効力を持つようなものではないことにもお気づきになられたことと思います。

問題はそういった鑑定書、証明書の実態を良く知らずに、

「高い楽器には鑑定書が付いているのが当たり前だ、付いていないのはおかしい」

「鑑定書が付いていないような楽器は買うな」

「イタリアの楽器でないと後で売るときに高く売れない、売りにくい」

と実に無責任な発言をし続けるような人たちが周りに沢山いることです。

そうすると、そういった発言を真に受けたお客様は、楽器商がいくらつくりの良い楽器、音の素晴らしい楽器をお見せしたとしても
「鑑定書が無いから買わない」「イタリアの楽器でないならば買わない」というようなことになります。
楽器がどんなに良くつくられ、良い音で鳴っていたとしても、鑑定書が無かったり、イタリアの楽器ではないとなると、それだけの理由で、二の足を踏んでその楽器を買おうとは決して思わなくなるのです。
これでは、苦労して楽器を探し出してきて、何とかお客様に良い楽器をご提案しようと努力している、まともな楽器商は全く報われません。

一方、この手のお客様が増えたことで、商売人の中では別の動きも出てきます。
つまり良い楽器でなくても、イタリアの楽器でありさえすれば、証明書、鑑定書が付いてさえいればいとも簡単にお客様は信用し、楽器が売れるということに気づいた人たちです。世の一般のユーザーはヴァイオリンそのもののクオリティよりも、鑑定書、証明書の有無の方がよっぽど重要なのだ、それが購入の決め手になるのだという事実に気づいたのです。

だったら、その世の中の流れに乗ろうじゃないかということで、何にでも証明書を付けだすこととなります。
鑑定書、証明書は所詮紙きれですし、しかもそれは誰が発行しても良いわけですから、作るのは簡単です。それが購入の重要な判断要件になるのだったら、楽器がスムーズに売れるのだったら、こんなたやすいことはない、誰かうまく書いてくれる人を探して後から付けようじゃないかということになったわけです。これが、近年、どんなつまらない楽器や弓にも証明書、鑑定書が付くようになって、世の中証明書、鑑定書だらけになってしまった理由です。

 

最後に、これまで8回に渡って書いてきたことの簡単なまとめです

・鑑定書は全て私文書であり、公文書ではない。形式上製作者を証明はしていてもあくまで私見である。

・鑑定書、証明書は発行するのに何の資格もいらない。誰もが発行できる性質のものである。
一流の鑑定書でも学術的証明は一切なされていない。

・楽器商(ディーラー)、製作家(職人)が鑑定書、証明書の主な発行人である。
つまり、皆商売人であり、中立的な公の鑑定家という立場の人間は存在しない。
商売人だから、利害の一致する相手同志ではたとえ鑑定内容に疑問があっても、お互いの鑑定書に異を唱えない可能性もある。

・モダン以降の楽器は工房で注文し製作者から直接購入しているので、証明書など必要なかった。だから付いていなくて当たり前。
近年、新作楽器に製作証明書が付いているのは、証明書が重視される状況を鑑み、皆付けるようになっただけ。
新作楽器も工房で注文し購入する   ので以前はモダン楽器同様、証明書は付かなかった。

・鑑定書、証明書の付いていない銘器、銘弓は沢山ある。
鑑定書などあろうとなかろうと、本物は本物、銘器は銘器であり、たとえ鑑定書などがあったとしても、偽物は偽物、駄作は駄作である。

じゃあいったいどうすれば良いのかということになりますが、くれぐれも鑑定書の有無を楽器の優劣、購入の判断材料としないことです。
当たり前ですが、「紙が音を出すわけではありません」、楽器が音を出すのですから。

気に入らない楽器が、紙が付いたとたん好きになることはないでしょうし、あれほど気に入っていたヴァイオリンなのに、証明書が無いということがわかったとたん嫌いになってしまうということもないでしょう。

まず鑑定書、証明書類の存在の有無ではなく、楽器そのものとひたすら向き合って、見て、弾いて判断してください。証明書、鑑定書類の確認は最後で充分です。

製作家の知名度、国籍、証明書の有無にかかわらず、良いつくり、良い状態の楽器は厳然と存在します。それらは、鑑定書や証明書が無くとも、見る人が見れば充分にわかることです。
大事なのは、本物偽物を判定したり、製作者の名前を特定したりするような「鑑定団ごっこ」ではなく、良い楽器を選び出すことなのではないでしょうか。
逆に言うと、最初から鑑定書や証明書を大上段に振りかざす弦楽器商だったらその時は要注意です。
それは楽器だけを見て良し悪しを判断する能力が無い人物なのか、もはや良い楽器かどうかなどお構いなく、とにかく高い楽器が沢山売れさえすれば良いとだけ考えている人物なのか、きっとそのどちらかでしょう。

 

 

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