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ヴェンゲーロフの奇跡|伊熊よし子 著

ヴェンゲーロフの奇跡

100年にひとりのヴァイオリニスト


伊熊よし子 著
共同通信社 \2,800 ISBN4-7641-0455-5

ヴェンゲーロフの生い立ちからこれまでの歩み(といってもまだ若干25歳!だが)を記したもの。天才を証明する数々のエピソードが載せられている。
“天才”と言っても、この本を読むと、その天才と呼ばれるヴァイオリンを弾く能力は、本人の音楽に対する並々ならぬ情熱と、猛烈な練習量 によって後天的にもたらされた部分も大きいことがわかる。

1988年4月、ヴェンゲーロフは初めて日本の地を踏んだ。私は残念ながら、この時のことは全く記憶にないのだが、この本によると、 コンサートはなんと1ヶ月間に14回も組まれ、リサイタルとコンチェルトを精力的にこなしたということである。
何と、今や超有名教師となったザハール・ブロンが、この時ヴェンゲーロフに同行し、毎回、本番間際まで練習に明け暮れたという。
演奏曲目はコンチェルトだけでもパガニーニ、ブルッフ、チャイコフスキーの3曲。
リサイタルプロは モーツァルト、ベートーヴェンのソナタ、ドビュッシー、ショーソンの詩曲、ショスタコーヴィチ、ワックスマンのカルメン幻想曲というもの。
古典から近現代。ソナタからヴィルティオーゾピース。ドイツものからフランスそしてロシア。かなり変化に富み、しかもテクニックと音楽性が要求される難易度の高いものである。

その当時まだ、13歳 である。

この日本公演の時のブロンとヴェンゲローフのレッスンの壮絶さについて同行した指揮者ゲルギエフがこう語っている

このときはブロン先生がリハーサルのときも非常にきびしくレッスンをし、それがマキシムの限界を超えたのでしょう。彼は突然泣き出してしまったんです。「もうこれ以上できない、ぼく」といって。こういうとき、指揮者はいったいどうしたらいいんでしょう。 (本書P224より)

彼のような傑出した演奏家でも、ステージに出るまでには、文字通り血のにじむような練習が重ねられていたのである。また、それを要求し続けたブロンのすごさ・・・・。

そのブロンとは1990年夏に別れを告げる。ヴェンゲーロフの家庭の事情で、突然、リューベックからイスラエルへ移らざるを得なくなったからである。この時のことが両者に溝を生んでしまう。

そう言えば、五嶋みどりもディレイと些細な行き違いから、レッスンを受けられなくなってしまった。

名教師の強い影響とそこからの別れ、それは早すぎても遅すぎてもいけないのかもしれない。
ただ、言えるのは、五嶋みどりも、ヴェンゲーロフも師の下を離れても成長し続け、今や確固たる地位をヴァイオリン界で確立できたということである。
もちろん頼る人が突然いなくなるという困難を乗り越える必要があったに違いない。
しかし、その時期はいずれはやってくるのだ。
ひょっとしたらその絶妙のタイミングは、天が用意し与えてくれたものなのかもしれない。2人のあまりにも似た師との関係を見てふとそう思った。


左からブロン、ヴェンゲーロフ、レーピン
1985年ヴィエニアフスキーコンクールにて
(本書P99より )

お薦めヴェンゲーロフCD


WPCS-6237
初めてヴェンゲーロフを知り、聴いたCD。
パガニーニでは、 テクニックの正確さにも驚いたが、2楽章のカンタービレの息の長さに感動。
一方、ハバネラでは限りなく繊細。
ただ馬力だけで弾きまくる天才少年では無いところを見せつける。 ロンカプ、カルメンでやっとお待たせしましたテクニックフル回転。 この時、彼はまだ“17歳”。
パガニーニ:協奏曲第1番
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
サン=サーンス:ハバネラ
ワックスマン:カルメン幻想曲

WPCS-4880
盛り沢山なヴィルティオーゾスタイルの小品集。なんと日本盤はリニューアルして竹内まりあの曲までがカップリングに。妖精の踊り(バッツィーニ)のスピッカート、左手ピッツィカートの鮮やかさには唖然。 全てが音になり、響きを持っている!
(ジャケット画像は旧盤)
ヴィエニャフスキ:華麗なるポロネーズ
パガニーニ:こんな胸騒ぎがによる変奏曲
ヴィエニャフスキ:伝説曲
クライスラー:美しきロスマリン、中国の太鼓
ブロッホ:ニグン
チャイコフスキー:懐かしい土地の思い出から
メシアン:主題と変奏
クライスラー:ウィーン奇想曲
サラサーテ:バスク奇想曲
バッツッィーニ:妖精の踊り
竹内まりあ:元気を出して

TOCE-55157
最新CD。
ストラヴィンスキーの協奏曲は現代的にすっきり聴かせるのではなくどこかロシア的なのどかさを感じさせる。
シチェドリンは、ヴェンゲーロフのために書かれた作品。深い抒情性ときらめくばかりの技巧をちりばめた作品。
ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲
シチェドリン:コンチェルト・カンタービレ(1997)
チャイコフスキー:憂鬱なセレナード