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菅野沖彦 レコーディング コレクション|XRCD|日本伝統文化振興財団

XRCD 菅野沖彦 レコーディング コレクション

XRCG  30025/8  日本伝統文化振興財団
菅野沖彦 レコーディング コレクション

【ビクター録音編】
Disc1:『ヴェーバージンケのバッハ名オルガン曲集』
J.S.バッハ:
・トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
・コラール『深き淵より、われ汝に呼ばわる』 BWV.686
・オルガン小曲集より『かくも喜びに満てるこの日』 BWV.605
・オルガン小曲集より『おお人よ、汝の大いなる罪を嘆け』 BWV.622
・パストラーレ ヘ長調 BWV.590
・前奏曲とフーガ 変ホ長調『聖アン』 BWV.552

アマデウス・ウェーバージンケ(オルガン)

録音時期:1971年4月
録音場所:武蔵野音楽大学ベートーヴェンホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

Disc2:『シュタルケル驚異のチェロ名演集』
・シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821
・ボッタームント/シュタルケル編:パガニーニの主題による変奏曲
録音時期:1970年12月
録音場所:東京、杉並公会堂
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

~ボーナス・トラック~
・コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ全曲
録音時期:1970年12月
録音場所:東京、ビクタースタジオ
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)
岩崎 淑(ピアノ:シューベルト)

【トリオ録音編】
Disc3:『オーレル・ニコレ フルートの喜び』
・シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ D.821(フルート編)
・シューマン:幻想小曲集 Op.73
・シューマン:3つのロマンス Op.94

オーレル・ニコレ(フルート)
小林道夫(ピアノ)

録音時期:1978年3月
録音場所:東京、石橋メモリアルホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

Disc4:『宮沢明子 ショパンを弾く』
ショパン:夜想曲集
・第7番嬰ハ短調 Op.27-1
・第8番変ニ長調 Op.27-2
・第11番ト短調
・第10番変イ長調
・第13番ハ短調 Op.48-2
・第1番変ロ長調 Op.9-1
・第2番変ホ長調 Op.9-2
・第4番ヘ長調 Op.15-1
・第20番嬰ハ短調
・第9番ロ長調 Op.32-1
・第15番へ短調 Op.55-1
・第21番嬰ハ短調

宮沢明子(ピアノ)

録音時期:1973年5月
録音場所:東京、青山タワーホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)

ステレオサウンドという雑誌を読んだことがある方なら菅野沖彦については良くご存じのことと思います。今やオーディオ評論の重鎮として君臨している彼ですが、1970年代は録音エンジニアとしても活躍していました。

代表的な録音をXRCDという技術でCD化したものがこの4枚組CDなのですが、今聴き直してみてその水準の高さには驚きを隠せません。

おそらく、菅野はオーディオ評論家という仕事を通じて、録音されたものが再生装置を通してどう再現されるかということについて他の録音エンジニアよりも熟知していたのだと思います。
そして、こういう音に録りたいという自分の音のイメージを強く持っていたのではないかと思います。
また、他のエンジニアと違い、あら捜し的な物理的な耳ではなく、自分の理想の音を実現するための情緒的な耳を持っていたのではないかと思います。
どの録音を聴いても、スケールが大きく、それでいて刺激的ではなく、極めて自然で温かい音調にまとまっています。オーディオを通したときにオーディオ的でなく響く、そのためにはどう録れば良いのかということを本当に良く知っていたのだと思います。
また、制作していたのが小さな組織だったので、アーティスト、曲目、ホール等の選択など全部自分で決めることができたということ、それも自分の理想の音を実現するためには重要だったのではないかと思います。

ブックレットの解説中で、嶋護は菅野録音の最大の特徴はピアノの録音にあると述べています。それは、「ピアノの“ボディ”が空間の中にリアルに現れる点」であり。「ボディが“視覚化”されると言ってもいい」点なのだそうです。そしてその要因として「ピアノのボディは振動しています。ピアノの音は、ハンマーと弦だけが出しているわけではなく、フレームとボディが増幅しているのです。菅野録音は、その振動を音として捉えているので、実物のピアノの大きさがはっきり現れます。」と述べています。

ニコレやシュタルケルの録音で聴ける伴奏のピアノの音では気が付きませんでしたが、宮沢明子のショパンを聴いてみると、確かに菅野のピアノ録音が他のレコーディングエンジニアの音とは違うことがはっきりわかります。

普通のピアノの録音の場合、ややパルス的、打楽器的だけれど、打鍵が明確なクリアな録音を目指しているものか、ホールトーンを多めに入れて、聴きやすい柔らかい音を目指したものかに分かれるのではないかと思います。
前者は明快ですが、長く聴いていると聴き疲れがしてしまいます。後者は細かいパッセージなどが聴き取りにくく、残響のためにフォルテなどが混濁してしまうこともあります。
ところが、菅野録音の場合は、そのどちらのパターンでもなく、実に不思議な感じなのです。おそらく、マイクは近めでホールトーンはあまり入れていないと思われるのに、ピアノの響きは実に豊かに聴こえるのです。
先の嶋護の言葉を借りれば、鳴っている楽器の共鳴をきちんと録っているからなのでしょう。そのためにはある程度マイクは近接しなければならないし、楽器全体の振動を余すところなく録るためには、過度な残響はかえって邪魔なだけなのかもしれません。
それにしても、こんな豊かで厚みがあり、それでいてクリアなピアノの響きは聴いたことはありません。

先の嶋護は、菅野とピアノは“相思相愛”だったと言っていますが、まさに楽器、奏者そして曲への愛情が伝わってくる録音だと思いました。
こういう録音を聴くと、録音は単に技術ではなく芸術だと思います。また、演奏家にとって誰に録ってもらうかは極めて重要なことではないかと思います。