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江藤俊哉 著 「ヴァイオリンと共に」

江藤俊哉 著 「ヴァイオリンと共に」

江藤俊哉 ヴァイオリンと共に「何を歌っているか知りたい」
音楽之友社  ISBN4-276-21283-9
江藤俊哉 著

江藤俊哉の70歳を祝って、アメリカ留学時代に書き溜めたエッセイ、演奏会評、門下生との座談会などをまとめた書籍が出版されました。巻末には年譜、門下生の受賞記録、演奏家記録等も完備され、読み物として大変読みごたえがあるだけではなく、資料としても大変充実した貴重な書籍です。

アメリカ留学時代のエッセイからは当時のアメリカ楽壇の様子が生々しく語られています。当時の巨匠たちの生演奏に触れての忌憚のない感想、意見などが事細かく綴られています。
また帰国後の日本での演奏会評を読んでみますと、日本に江藤の演奏が旋風を起こしたことがわかりますが、一方、いかに評論家という人種は勝手なことを言う人たちかということがよくわかりますね。
江藤がカーネギーホールのリサイタルで使ったヴァイオリンがクレモナだと思ったという話(実際はリュポー)もちょっと滑稽ですね。
江藤は、練習の工夫、努力も並大抵のものではなく、例えばSPレコードをわざと遅く回して、名手たちのシフティングやヴィブラートのかけ方を研究したというようなことを座談会で話しています。
今はCD、YouTube等で音源も簡単に探して手に入れることができますが、一昔前までは、SPやLPレコードを文字通り、擦り切れるまで繰り返し再生して勉強したものなのです。今の学生は何でも簡単に手に入るのでそういった音源の有難味をあまり感じなくなってきているのではないでしょうか。工夫次第によって、そこから得ることのできる情報は無限に近いものがあるということなのです。

何より江藤が言いたいことは、あとがきに記されていましたが、

まだ若いころのエッセイも今になってみると、気負ったところやロマンティックな感情に任せているところなども感じられますが、そのときに抱いた音楽に対する考え方は現在でも変わりません。むしろ、私の音楽の出発点がここにあったのかと改めて考えさせられました。
読み返しながら、演奏を志す人や、音楽を愛する人にはぜひ分かってもらいたいと思うことがありました。それは、この本のタイトルにもした言葉ですが、「何を歌っているか知りたい」という言葉です。これはアイヒェンドルフの詩の一節です。
―中略―
私は、演奏はつまるところ、その演奏者が、楽譜や作品と向かい合って何かを感じて、何かを表現することだと思っています。だから、自分の演奏だけでなく、他の演奏者の演奏を聴く場合でも、その人が何を歌おうとしているのかがとても気になります。歌が無ければ音楽ではありません。音楽をする人には、本当に十分に自分の心で感じて、自分の中で歌って、そして表現してもらいたいと思っています。そしていつも音楽に満たされた演奏を目指してもらいたいと思っています。

ということです。
自分は曲をどう感じているか、それをどう表現するか、そしてそれが人にきちんと伝わる、わかってもらえることが音楽をやるうえで最も大事だということなのです。

この本は量も、内容も大変なものがありますので、ここで全部を語りつくすことはできませんが、興味深い内容ばかりですので、是非手に入れてお読みいただきたいと思います。