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ヴァイオリン購入に鑑定書・証明書は必須か?・その4

ヴァイオリンを買う時、鑑定書・証明書は本当に必要なの?第4回

今回はヴァイオリン(弦楽器類)の証明書・鑑定書についてのお話の続き、第4回目になります。

製作者本人以外によって書かれた証明書・鑑定書類についてのお話の続きです

前回のおさらいになりますが、証明書・鑑定書を書いている人間は、だいたい

A) 弦楽器商(ディーラー)

B) 製作者の師匠

C) 製作者の親族(師弟関係にあることが多い)

D) 他の製作者、弦楽器職人

E) 本の編纂者

このような人たちでしょう。

ここには皆さんが期待し、想像されるような 鑑定家、研究者(学者) というような肩書きを持った人たちはいません。ですから、それぞれがそれぞれの持つ知識、経験を基に鑑定をし、証明書を書くということになります。
そしてここで注目すべきは、それぞれ皆、楽器の売買に関わる可能性のある、いわば商売人たちであるということなのです。
純粋な研究者ではなく商売人が書いているとなると、真実の探求よりも自らの利益のために、鑑定書をでっち上げることがないとは言いきれません。(もっとも、研究者が絶対に不正を働かないとは言い切れませんが)

それでは、A)~E)の項目を個々にみていきましょう。

A)、D)、E)は兼業していることも多いので、ここでは一緒に扱います。

Hillの鑑定書世界的な楽器商、歴史的な楽器商になると、長年に渡って販売や修理、調整等で沢山の楽器、銘器を扱ってきています。その過程で、楽器の写真であった
り、修理の記録などデータとしてかなりの量の蓄積があります。それらのデーターと知識や経験から生じる勘のようなものを生かして「鑑定」を行うわけです。

また、その楽器商で長い間働いてその後に独立したような職人、ディーラーなども、世界的、歴史的楽器商、ディーラーに準ずるデータの蓄積、経験や知識を持ち合わせている可能性が高いと考えることができます。
また、書籍の編纂という作業も楽器の写真を載せるために楽器を沢山集めて撮影したり、製作者のバイオグラフィーなど、歴史的背景を詳細に調べたりしますので、編纂者にはデータが蓄積されると考えられます。

以上のことを、逆から見ると、鑑定書の発行、本の編纂は発行者や編纂者の権威付けに繋がるとみることができるでしょう。古くは、英国のヒル商会がこ
の手法を使い、Strad やdel Gesuを銘器たらしめ、自らも権威として君臨することに成功したのです。現在のディーラーや製作者、職人もヒルの手法に倣い、本を編纂し、証明書を発行したりしていると言えるでしょう。

ただ、国籍、年代を問わず、ありとあらゆる楽器に精通しているということはまず不可能でしょう。
これまでの2、300年のヴァイオリンの歴史を考えれば、製作者の数、そして作られた楽器の数というのはそれこそ星の数ほどあるわけで、どんなに歴史ある名門ディーラであっても、それらの楽器全てを扱い、そのデータを収集しておくことは不可能でしょう。

モダンイタリーヴァイオリンの書籍本の編纂の場合は、時代や国籍、製作地域、製作家などテーマが決められていることが多いので、その範囲では高度な知識が蓄えられていると思います。しかしその範囲外の楽器に関しては鑑定が難しいと考えられます。
モダンイタリーの書籍で有名な編纂者に、フランスやオールドの楽器を見せても「自分には鑑定する自信が無いと」言われると思います。

専門分野がはっきりしていたり、あるいは自分はその分野での権威を目指そうとしているディーラーなどは専門外でわからないものや、怪しいものにはまず鑑定書は書きません。自分の経歴に瑕が付くことをおそれるからです。

れでも、ときどき有名な人の発行した鑑定書のなかに、「北イタリア地方の1850年頃の楽器と思われる」というような表現が見られることがあります。ここで「ラベル通りの製作者と思われる」とか言ってしまったら後で大変ということなのでしょう。私はそういう表現を見ると、相当苦労しているなあと苦笑せざるを得ません。

余談ですが、あるHPで「楽器を買う時は必ず鑑定書付き、それも〇リック・ブ〇ットのものでなければダメだと」言ってる方がいらっしゃいました。

先に述べたように、その分野での権威を目指すような人は専門外の楽器については決して鑑定書、証明書を書きません。
ですからイタリア以外の国籍の楽器に〇リック・ブ〇ットの証明書はまず付いてきません。(本人はフランス人ですけれど・・)
先の方の意見を鵜呑みにするなら、どんなに良いフランスやドイツの楽器があったとしても〇リック・ブ〇ットが付かないので、買ってはいけないということになってしまいます。
また、イタリアの楽器でもオールドの時代のものだったら〇リック・ブ〇ットの証明書付きのヴァイオリンはあったとしても少ないはずです。彼はモダンイタリーの専門家を標榜しているからです。
もし、ヒル商会のような名門楽器商の鑑定書が付くようなイタリアンオールドであったとしても、〇リック・ブ〇ットの証明書が付いていないから買うなとその方は言うのでしょうか?それなら、まず間違いなくどこかの名門ディーラーの鑑定書が付いているであろうStraddivariやdel Gesu クラスの銘器にも〇リック・ブ〇ットを付けろということになりますね。
もちろん、そんな名門ディーラーが扱ったようなStradクラスの楽器であれば、後出しじゃんけんのようなもので、すでに正しい答えが出ていていますから、〇リック・ブ〇ットは喜んで証明書を書くとは思いますよ。何も調べなくて良いし、考えなくて良くて楽ですから。(もちろん有料でしょうけれど・・・)

長くなりましたので、今回はこの辺で、また次に続きます。

 

 

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