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ヴァイオリンを買う時、鑑定書・証明書は本当に必要なの?・その8

ヴァイオリンを買う時、鑑定書・証明書は本当に必要なの?第8回

ヴァイオリン(弦楽器類)の証明書・鑑定書についてのお話、今回はその第8回目です。

本来であれば、今回はこれまでのまとめを書く予定でしたが、書くのを忘れていた大切なことがありましたので、それについて書かせていただきたいと思います。それは

「本物」の範囲、その概念についてです

ここまでお読みいただいた方は、鑑定書や証明書に書かれていることは、経験による私見であって、学術的証明や論拠を示して製作者を明らかにしているものではないということは十分ご理解いただけたことと思います。

しかし仮に私見だとしてもそれらの書類には「本物」かどうかについての意見が述べられているわけですが、そもそも「本物」とはどこまでが「本物」なのでしょうか?

そもそも「本物」と呼ばれるものはどういったものなのでしょうか?

それについてお話ししてみたいと思います。

本物とは?そもそも本物とは?

1) 本人が一から十まで全て自分で作った楽器
2) 本人が作り、一部弟子の手が入った楽器
3) 弟子が作り、一部本人の手が入った楽器
4) 本人の監修の下、弟子が全て作った楽器
5) 弟子が全て作り、本人が本人作として出すことを認めた楽器

 

1)を「本物」と呼ぶことには全く異論、問題は無いでしょう。ただし、これはたった一人ぼっちで作っているような職人でないとまず有り得ないことと思います。
通常、ヴァイオリン工房は数人から(フランスや中国などでは)数十人から成るチームで編成されますが、弟子たちに親方の楽器を作らせることは、一人前の職人を育て上げるうえでの立派な指導、教育の一環なのです。ですから1)は駆け出しの製作家、独立したてなどの時期以外は考えられず、通常の楽器は2)、3)のようなスタイルで製作されることになります。

2)~5)は純粋な本人作ではないから「本物」とは呼べないかというと、ヴァイオリン製作の世界では上記のようにむしろごく普通のことなので、皆「本物」と見なされます。

4)、5)は弟子個人の名前、あるいは工房製として出すべき楽器なのでしょうが、できるだけ高く売りたいと考えるのがこの世界の慣わしですから、ごく稀な例を除いては、わざわざ弟子作、工房作のような下位のラベルで出されることはありません。

そうすると、あれほどイタリア製にこだわっていても
どこまでが「イタリア製の楽器」と言えるのだろう?という疑問が湧いてきませんか

 

そもそもイタリア製の楽器とは何ぞや?ということなのですが

 

A)  イタリア人がイタリアで作った楽器
B)  イタリア人がイタリア以外の国で作った楽器
C)  イタリア国籍以外の人がイタリアで作った楽器
D)  他国で作った(
白木の)楽器にイタリアでニスを塗ったもの

A)をイタリア製と呼ぶのは誰が見ても問題は無いですが、B)の例でGiuseppe Fiorini という製作家がいます。この人は製作地が転々としたのですが、その製作時期によってスイス製やドイツ製と呼び分ける人はまずいません。スイス、ドイツ時代の楽器でも、Fioriniはイタリア、ボローニャの著名製作家ということで、イタリア製の楽器(の価格)として扱われます。

C)の例としては、Matteo Goffriller やDavid Tecchler がいます。二人ともオーストリア生まれですが、イタリアの製作家として名が通っています。 Goffrilleのチェロはカザルスが使ったことで超有名ですよね。現代ではStefano Conia、Giorgio Grisales、Edgar E.Russなど生まれはイタリアではないですが、みな一応イタリア、クレモナの製作家として認識されています。

D)の例としてはイタリアのTorinoなどが挙げられます。Torinoはフランスの国境近くで、また、時代により微妙に国境線も変わったでしょうから、かなり距離間が近かった時期があるのではないでしょうか。そのせいで製作者同士の交流が頻繁にあり、フランスで白木のボディを作らせてイタリアでニスを塗るというようなことも行われていたのです。
ボディを見ればフランス製、全くフランス的なつくりなのですが、ニスはイタリア流ということで、これもイタリア製として扱われます。
一方、この白木のボディにフランスでニスを塗った楽器もあります。そうすると、こちらはフランス製ということになり、売値はイタリアの楽器の1/2とか1/3の価格になってしまいます。
中身(ボディ)は全く一緒でも、わずか数10キロの距離の違い、イタリア製かそうでないかで価格が大きく違ってしまうのです。
(現代では中国で白木のボディを作り、各国でニスを塗り仕上げるといった手法が行われています。)

結論としてはA)からD)まで全てイタリア製として見なされることとなります。
先の例と同様、何とかして高く売れる理由を付けたいというのが、ヴァイオリンの世界の商習慣ですから、どこかに少しでもイタリアの要素が入っていればイタリア製として売り出されるということになるのです。

「本物」であることにこだわったり、「イタリア製」にこだわってみても、そこには許容される範囲や幅がかなり存在することを知っておかなくてはなりません。その上で、それでもそれらにこだわり続けるのかどうかを冷静に考えるべきでしょう。

次回こそ、ヴァイオリン(弦楽器類)の証明書・鑑定書についてのお話のまとめ(最終回)としたいと思います。

 

 

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